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津波から園児54人を救った“閖上の奇跡” 生き延びた子は19歳「カーテンを羽織って…」 元保育所長が語る教訓とは?小川キャスター取材【news23】

国内
2025-03-12 15:07

東日本大震災で津波に襲われた宮城県名取市で、54人の園児を避難させて命を救い、「閖上の奇跡」と呼ばれた保育所がありました。当時の所長や生き延びた元園児の証言から浮かび上がる教訓とは?小川彩佳キャスターの現地取材です。


【写真で見る】「偶然で奇跡は起きない」津波から園児54人を救った“閖上の奇跡”


「小さいうちから身につけられたら」月1回の避難訓練

仙台市から車で30分ほど沿岸にある、名取市閖上地区の保育園「閖上保育所」には0歳から6歳の園児68人が通っています。


園児
「こんにちは」


園の庭で元気いっぱいに遊ぶ中、この日行われたのは月1回の避難訓練。


「地震です、地震です」


地震が起きたという放送が流れると、子どもたちはすぐに先生のもとに集まってしゃがんで頭を守ります。


閖上保育所 佐藤雅子 所長
「津波がくるかも知れないので、高いところ、閖上小中学校の上の方に避難したいと思います」


園児たちは隣の子と手を繋ぎながら、向かいにある避難先の閖上小中学校まで歩き、約2分ほどでたどり着くことができました。大津波警報が出た際は、校舎の4階に避難します。


小川キャスター
「避難訓練のとき大事なことは?」


園児
「(炎や煙などに)近づかないこと」
「あと走らないこと」
「押さないこと」
「地震の時、テーブルの下に隠れなかったら物がいっぱい降ってきちゃう」


閖上保育所では、避難の際の注意点などを伝える紙芝居を取り入れるなど、防災に力を入れています。


閖上保育所 佐藤 所長
「ここは海に近い場所で、14年前の東日本大震災を受けて、地震と津波というところで(命を)守るためにはこういう風に避難するんだよということを、小さいうちから身につけていけたらいいというのを一番に考えて」


津波から園児54人を救った“閖上の奇跡”

漁師町として栄え、名取川の河口付近に街が広がる閖上地区。


「現在、名取川の状況、津波が川を遡上しているのが確認できます」(2011年3月11日)


閖上地区は津波で壊滅的な被害を受け、名取市内の死者の8割にあたる700人余りが犠牲になりました。


津波が向かってくる様子を捉えた写真には、閖上保育所も写っています。移転後の今と違って、海の近くにあり津波の被害を受けて跡形もなく流されました。

しかし、この大津波が襲う前に1歳から6歳の54人の園児全員が避難し、犠牲者は1人も出ませんでした。

語り継がれる閖上の軌跡はなぜ起きたのか。


少ない情報の中、避難を即決 元所長「(職員を)信じていた」

当時、閖上保育所の所長だった佐竹悦子さん(73)。


閖上保育所 元所長 佐竹悦子さん
「(閖上保育所は)あの辺りにあった。すぐそこが広浦港という閖上の港、向こうが海になります。(海は)子どもにとっては良い遊び場だった。砂浜で遊んだり」


揺れが襲ったのは午後2時46分。園児たちはお昼寝の時間で、パジャマ姿でした。


閖上保育所 元所長 佐竹さん
「よちよち歩きの子どもたちから就学児までいたけど、『津波が来るかもしれない』という情報は入っていて。だけど、実際は保育所にある防災無線も稼働しなかったので、地震のために。はっきりしたことは分かっていないんです」


そんな中、佐竹さんは「避難」を即決し、三つのことを職員に伝えました。


閖上保育所 元所長 佐竹さん
「(1)逃げます、(2)車を持ってきてください、(3)小学校で会いましょう。保育所に残ってたのは54人、その子どもを5台の車に乗せた」


職員が園児らを車に乗せて向かったのは、1キロ以上内陸にある閖上小学校。佐竹さんは全員が出発したのを確認し、最後に保育所を後にしました。


閖上保育所 元所長 佐竹さん
「心配はしてなかったです。信じていたというよりは絶対行くだろうと思っていて」


今は倉庫が建つ場所に、閖上小学校はありました。倉庫の高さほどの3階建ての校舎の屋上に避難、その約30分後に津波が来たといいます。


閖上保育所 元所長 佐竹さん
「ヘドロと家と車とがれきが一気に来るので、何が起きているのか判断できないというか、一瞬では理解できなかった」


小川キャスター
「海の様子を、見せるわけにもいかないという」


閖上保育所 元所長 佐竹さん
「そうですね、見せてなかったですね。大人で囲んで(園児を)真ん中に置いていたという感じ。トラウマにさせたくないというのはありました」


寒さをしのぐため、学校の教室で夜を明かし、その後、園児全員を保護者に引き渡しました。


閖上保育所 元所長 佐竹さん
「『守り切った』とか『感動』とかはなかった。朝お預かりした命は夕方お渡しするまで責任がある。私たち職員の考え方というか仕事・目標」


当時5歳の元園児も鮮明に記憶「カーテンを羽織って…」

佐竹さんとともに避難した元園児の渡邊倭さん(19)と小野亮馬(19)さんは、震災当時2人とも5歳でした。


この日、渡邊さんが持ってきたのは、避難の際に来ていたパジャマと靴そして上着。


佐竹さん
「しまってあるんですね、大事に」


2人はあの日のことを鮮明に覚えていました。


渡邊さん
「羽織るものも全然なくて、カーテンを使って皆で羽織って暖まってた記憶」


小野さん
「先生に言われるがまま行動してたって感じ。避難所でも水をペットボトルのキャップに分けて、ちょっとずつ飲んだのを今でも覚えています」


今、渡邊さんは薬学部の大学生として大学院進学を、小野さんは専門学校に通いながらスポーツトレーナーを、それぞれ目指しています。


閖上保育所 元所長 佐竹さん
「避難所で行われた退所式のときに『夢は諦めないでね』と伝えた記憶はある。生きてればこうやって子どもたちの成長を見ることができて、私たち保育士にとっては最大のご褒美」


「見直したのが良かった」園児たちを救った“避難マニュアル”

なぜ子どもたちの命を救えたのか。

実は震災の前の年まで、閖上保育所の避難マニュアルは近くのアパートを津波の避難先としていました。


閖上保育所 元所長 佐竹さん
「避難していくアパートは(階段の)間口が狭い。一斉に子どもたちが上がれないこともあって、怖いねって話になった。毎月、避難訓練をやっている中で反省をしながら、職員と、どの道路を避難したらいいだろう、どこが安全だろうという確認をして、マニュアルの見直しをしたのが一番良かったのかなと思います」


東日本大震災の保育施設の対応について分析した専門家は、「施設によって対策が異なる。それぞれの実情を踏まえて自ら考えてほしい」と話します。


愛知県立大 清水宣明 教授
「助かった方法が正しいとは限らない。大事なことは、その時どんなことが自分に起こるのかなというのを具体的に、小さいことを含めて全部挙げてみる。問題が分かれば、99%は自分たちで解決できます。保育施設には“災害弱者”がいる。保育園の対策ができれば、そういう方々の対策は全てできる」


閖上保育所 元所長 佐竹さん
「『偶然で奇跡は起きない』というお話をさせていただいていますが、自分ごととして、先生たちが考えて動かなきゃいけない。人が作ったフォーマットに責任はない。実際の現場での責任はあなた方ですよって」


「偶然で奇跡は起きない」。佐竹さんは備えの大切さを訴え続けています。


『偶然で奇跡は起きない』避難マニュアルは震災直前に改定

藤森祥平キャスター:
いざというときには想定外のことばかりが襲いかかってくるのだと思います。

改めて「偶然で奇跡は起きない」という言葉。大切な命、子どもの命を守るために最後は自分で決めなければならないということですね。


小川彩佳キャスター:
取材してみて「自ら考え抜いて備えることの大切さ」を実感しました。当たり前のことのようで意外とできていないことなのかもしれないと感じます。

「閖上保育所」の元々の避難マニュアルでは、子ども達は徒歩で避難所まで避難するという想定になっていたのですが、元所長の佐竹さんは、よちよち歩きの子どもたちが緊急時に避難所まで歩くことができるのかといった疑問を持ち、車での避難を検討し始めたそうです。

(車での避難には)渋滞に巻き込まれるリスクもあり疑問視する声も多かったということです。そこで、あらゆる経路を職員が一つ一つ検証して、何度も辿ってみて、「ここならいけるかもしれない」という経路を設定するなどの作業を繰り返して、一年ほどかけてマニュアル改定したのが、震災直前の2月だったといいます。


藤森キャスター:
「マニュアルが全てではない」とマニュアルを疑ったり、自分たちで考え抜くことが重要ですね。


小川キャスター:
実際に車で避難して渋滞に巻き込まれ、津波にのまれて亡くなった方も多くいますので、「閖上保育所」のマニュアルが完璧だったから助かったというわけでもないと思います。設定していた経路が安全だったという保証もなく、施設によって事情は異なると思います。

ただ、防災に向き合う作業の中で「子どもたちの命を守るのは自分たち」という強い意識に根付いて、「起こり得ることを全て想定し尽くしていこう」という職員みなさんの姿勢こそが、主体的な、覚悟を持った迅速な対応に繋がったのではないかと感じました。


藤森キャスター:
愛知県立大の清水宣明教授は「無理がきかない幼い子ども達の集まる保育園での対策は、高齢者施設などどこでも通用すること」としています。


日本総研主席研究員 藻谷浩介さん:
大人が助かっても、子どもが犠牲になってしまうというのは本当に残念なことです。大人は「避けることができた」という義務感を持って対処していかなければならないと思います。

保育所の職員など子どもを大事に思っている人たちはそう考えるでしょうが、一般の人、行政の人まで同じように考えているでしょうか。

「これは大丈夫じゃないか」「そういうことは起きないのではないか」と甘く考えて、対処している行政はないでしょうか。起きるはずのないことが、起きるということまで考えた上で、対策を打たなければいけません。

宮城県は全国に先駆けて、学校の耐震化に取り組んでいたので、学校まで避難すれば、校舎は倒壊せず、津波にのまれても屋上に避難すれば大丈夫でした。

未だに耐震化されていない学校も残っているといわれてます。起きるかもしれないことを、起きると思って大至急に対策をとるべきです。


小川キャスター:
子どもを守るためにあらゆる想定を重ねることに尽くした、閖上保育所の教訓を、それぞれ職場や家庭に置き換えて教訓にしていただければと感じます。

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<プロフィール>
藻谷浩介さん
日本総研主席研究員 著書「デフレの正体」
「農業経営」についても多数講演


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