高額な医療費の自己負担を抑えてくれる「高額療養費制度」。政府が示した自己負担額の引き上げ案が国会で議論されていますが、がん患者からは「治療を続けられるのか不安」といった声が上がっています。
【写真を見る】自己負担額の上限引き上げ、どのくらい負担が増える?
年収300万円で「月2万円超」の負担増も
「乳がん患者です。高額療養費の上限が上がってしまえば、治療を諦める可能性がある。不安」
「貧富で命の価値に差をつけないで」
「誰もが病気になる可能性がある。病気になっても、安心して生きていける社会であってほしい」
これは、高額療養費の自己負担の上限額引き上げに反対する署名の呼びかけの際に寄せられた声です。署名は、1ヶ月足らずで約5万4000筆が集まり、今後、厚労大臣に提出する予定です。
自身も子育てをしながら、がん闘病を続ける三戸部ゆうこさんが署名を呼びかけました。
がん患者 三戸部ゆうこさん
「一番困ってる人に、届けられるような政策を審議してもらいたい」
手術や入院で治療が高額になった場合に、自己負担額を抑える高額療養費制度。政府は2024年12月、この自己負担額の上限を2025年8月から段階的に引き上げる方針を決めました。
その理由について、6日の国会でこの様に答弁されました。
福岡資麿 厚労大臣
「保険料負担の抑制を図り、患者の方々にとって大変意義のあるこの制度自体の、持続可能性を高める観点から行いたいと考えている」
自己負担額の上限は年収や年齢に応じて異なりますが、政府の方針では、年収約300万円の人の場合、現在の限度額は5万7600円/月ですが、2027年8月には2万1600円増の7万9200円/月まで上がります。
また、年収約600万円の人の限度額8万100円/月は、2027年8月には11万3400円/月となり、11万円を超えることになります。
「治療を続けられるのか…」制度利用者の不安
がん治療中の女性(40代)
「治療を続けられるのかなっていう不安がすごく生まれました」
7年前、胃がんと診断された女性は、高額療養費制度を利用して治療を続けています。
がん治療中の女性(40代)
「新しい治療薬が出てきて、それを使わせていただいたりして、当初の言われた余命から大幅に更新して長く生きることができていて、その中でやっぱり高額療養費制度も使いながらやってきたので、もし(治療の)7年の途中に引き上げがあったりしたら今生きてるのかなとかっていうのをちょっと考えたりしますね」
今後、医療費の自己負担額が増えれば、治療にも影響するのではと不安を口にしました。
がん治療中の女性(40代)
「治療の回数を減らすのかも治療自体を諦めるのかそういうところを判断しなきゃいけなくなるんじゃないかなと思います」
町ではこの様な声がきかれました。
30代女性 引き上げ反対
「反対ですかね。やっぱ大きい病気したときに、一気にお金が飛んじゃうのやっぱり厳しいので、誰でも何か使う可能性がある」
60代 引き上げ反対
「手術って本当にびっくりするぐらい高いじゃないですか。いざなったときには、本当にありがたい制度です」
20代 引き上げ賛成
「賛成ですね。社会保険をこれ以上、上がらないようにしてほしい」
医療のセーフティーネットはどうなるのでしょうか?
上限引き上げで支払いは困難に
藤森祥平キャスター:
たとえば、年収500万の方が月に100万円医療費がかかった場合、自己負担3割の30万を払わなければいけない。しかし、高額療養費制度により約21万円が高額療養費として払い戻され、自己負担が約9万円になります。
高額療養費制度の自己負担額引き上げの議論が進んでいくと、払い戻される金額が下がってしまいます。
この議論が進んでいる要因は、高額療養費の支給額というのが年々増えているというところにあります。2012年と比べると2021年は約7000億円も支給額が増加しています。
政府は自己負担額の上限を段階的に引き上げる方針でしたが、不安の声が上がっているため、修正を検討しなければいけないということです。
教育経済学者 中室牧子さん:
医療費の負担が上昇してることは確かだと思います。
私も数年前にがんになった際、この制度に助けられた人の1人です。年齢もまだ若く、まさかがんになると思っていなかったので、全く備えていませんでした。これに救われた人は、私以外にもたくさんいると思います。
立教大学経済学部の安藤道人教授に、「高額療養費の上限額を引き上げるとどうなるか」ということについての試算をしていただきました。1年を通じて高額療養費の上限まで自己負担した場合、手取り所得に占める割合が非常に高いということを示しています。
【「手取り所得」に占める割合】
年収200万:39.8%
年収770万円:26.5%
年収1650万円:32.3%
すべての年収区分で、手取りの20%~30%を超える額まで、医療費の負担がかかるということになり、支払いの難しさもここからもわかると思います。
自己負担増なら「治療断念」も
藤森キャスター:
自己負担が増額された場合の影響について、がん患者の方にアンケートを取りました。(全国保険医団体連合会 調べ)
【治療への影響】
治療の中断を検討する:46%
治療の回数を減らす:61%
【生活への影響】
食費などの生活費を削る:82%
貯金を切り崩す:78%
治療はもちろん、日常生活にも影響をもたらすことになりそうです。
小川彩佳キャスター:
経済的にも、かなり厳しい状況に追い込まれてしまいそうですね。
中室さん:
UCLA医学部の津川先生は、高額医療費の見直しに当たって「日本の医療費は6%から10%に非効率があるのではないか」「金額にして、一兆から二兆ぐらいある」と試算されています。医療費の削減をした後、国民の負担を求めるということが、合理的ではないかなと思います。
小川キャスター:
「どれだけ議論が尽くされたのか」というところに疑問を持ちますし、誰もが当事者になり得る話なので、拙速に進めるべきではないと思います。
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<プロフィール>
中室牧子さん
教育経済学者
教育をデータで分析
著書「科学的根拠で子育て」
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