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男子プロでは1試合1500kcalの消費も!ロス五輪にも採用の超過酷な競技・スカッシュ、2大会連続メダル狙う渡邉聡美に注目【アジア大会】

スポーツ
2026-09-23 12:08

開幕したアジア最大のスポーツの祭典、第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)は2年後の2028年ロサンゼルス・オリンピックの予選を兼ねる競技がある。サーフィン、アーチェリー、トライアスロン等に加え、ロサンゼルスでオリンピック初登場となる「スカッシュ」も23日から競技が始まり、男女の個人金メダリストに出場枠が与えられる。


【一覧】アジア大会 愛知・名古屋 日程&各競技代表選手


日本からは男女8選手が出場するが、注目は前回の23年杭州大会女子個人銅メダルで、7月時点の世界ランキング6位の渡邉聡美(27)だ。8歳から競技を始め、マレーシア、イギリスに留学して腕を磨いた彼女は、昨年の非オリンピック競技が集まったワールドゲームスで優勝。国際大会では世界ランキング1位のエジプト選手に勝利するなど、調子を上げている。母国でロサンゼルスの切符を手にする好機を活かせるのか。期待が集まる。


そもそもスカッシュは19世紀のロンドンから始まったとされ、「押しつぶす」「潰れる」という意味の「squash」が語源。ラケットで打った時にボールが潰れることから名づけられた。当初は刑務所内の囚人たちが壁打ちをする遊びだったという。それが名門男子校でゴムのボールを使う現在の形が誕生し、イギリスからインド、エジプト、豪州、米国などを経て世界へ広まった。コートがテニスの約4分の1で済む土地利用効率から都市型のスタイリッシュなスポーツとして現在は世界180を超える国・地域に約2千万人の愛好者がいると言われる。


ルールは四方の壁を使いながら正面の壁の上限であるアウトラインと「ティン」と呼ばれる下限の部分の間にボールを打ち返していく。床に2バウンドする前にノーバウンドかワンバウンドで打つのはテニスと同じだが、違うのはオンライン(線上)にかかったボールがアウトになることだ。


何より、主なラケット競技はネットを挟んでの対面がほとんどだが、スカッシュは壁に向かって個人の場合は2人が前後、左右に位置する。お互いの息遣いが感じられる縦9.75m、横6.4mの狭いコートの中で、最速で時速約200kmのスピード感、「3次元ビリヤード」「壁のチェス」等と呼ばれる戦術性、そして男子プロでは1試合1500kcalを使うとされる持久力を競う。1点を争うラリーが50回近く続くこともある。


「サービスエースで決まることがほとんどないので、頭と体の両方で上回らないと勝てない。昔は今のラリーポイント制(サーブ権に関係なく得点)ではなく、ハンドアウト制(サーブ権のある方のみが得点)だった。2時間近い試合もあり、『終わったら病院にいかなきゃ』ということも」と笑うのは、女子の全日本選手権で歴代2位の7度優勝した宮城島真知子さん(73)だ。元日本協会常務理事で、1979年には日本選手で初めて海外大会で優勝を飾った。


バドミントンから転向

日女体大時代まではバドミントンの選手だったが卒業にあたり、「これからはスポーツジムの時代」と確信して都内のジムに押しかけて入社。学生時代に先輩から「これが今度、日本に入ってきたスカッシュという競技のラケットよ」と見せられた時の「可愛い」と思った記憶から就職を機に転向。社会人3年目で全日本初制覇。初期のスカッシュ界の女王だった。


「私が得意だったのは、『ニックショット』と呼ばれる床と壁の境目でボールが弾まないショット。まず、高いロブを上げて相手を後方に追いやり、短いショットを打たせる。自分は前に出てT(ポジション)からニックに思い切り叩き込む。こう来るだろうと予想して、そのボールが来ると、『プレゼントが来た』って感じです。なので、ニックショットを決めるために、とにかくその形を作るロブを磨いた」


T(ポジション)とは、前壁と平行で左右のサービスボックスを結んだ横のショートラインと、そのショートラインの真ん中と後壁を縦に半分に分けるハーフコートラインが重なる辺りのこと。この位置にいると、コートの全面をカバーし、相手の視野を遮りながら攻撃出来る。つまり、ここに長くいる選手が有利に試合を進めているということになる。


もちろん、渡邉もこの位置にいて攻撃の得意パターンがある。それがディセプションショットと呼ばれる相手を欺く、いわゆる「だますショット」だ。ラケットに直径4cmのボールが当たる瞬間までの時間を利用しながら、T(ポジション)で後ろにいる相手に打つ動作を見えないような位置取りをし、手首の返しやタイミングを変えたり、視線を向けない方向に打ったりして相手を迷わせる。前方にいる時も常に相手を肩越しに見て、次のプレーを予想しながら相手の読みを外すショットを狙っている。


最大のライバルと思われるのが世界ランキング5位で、第1シードのシバ・サンガリー(マレーシア)だ。渡邉とは同世代でジュニア時代からのライバル。暑い東南アジアでは、空調がついていないコートも多く、ロブを使ったゆっくりしたリズムで戦う選手が多い同国を代表するタイプで、パワフルで攻撃的な渡邉とは好対照の存在。組み合わせをみると、順当なら2人は決勝で当たる。


準決勝で当たるだろうアナハット・シン(インド)も要注意の選手だ。まだ、十代の新星だが、ボールコントロールに定評のあるテクニシャン。甘いボールを返すと、ニックショット等がある。渡邉の場合は、事前に相手が本人より強い選手に負けた時、力が同等の選手の時、弱い選手に勝った時の3通りの動画を見て作戦を練った対戦ノートを作ってから、試合に臨む。いくつもの作戦が引き出しには準備されているはずだ。


国内の愛好者は約30万人だが、まだ「自らがプレーする、やるスポーツ」の印象が強い競技だけに、なかなか試合を見る機会が少ないスカッシュ。日本協会の吉留慎吾強化スタッフ(38)が観戦のコツを教えてくれた。試合場は安全ガラスで横からも見ることが出来るが、やはり背面からが分かりやすいという。「選手と同じ目線に立って、コートを前後左右で4等分する。その時の選手の立ち位置でどこに隙間があるか、を見る。ボールは小さいので、それを追いかけるよりも、選手の動きを見ていた方が分かりやすいです」。選手は実際には16等分くらいで考えるらしいが、素人には4分割で十分楽しめそうだ。


ビリヤード、チェスに例えられる一つ、一つのプレーが次の動きにつながる。その様子や試合の組み立てを、吉留さんが指導する子どもたちに教えると、彼らは暮らしの中にある面白い考えや法則を分かりやすく伝えるテレビの教育番組になぞらえて「『ピタゴラスイッチ』みたいだね」と話すそうだ。


2012年のロンドンで発祥の地として追加競技に提案されてから5大会を要してオリンピックに加わるスカッシュ。このアジア大会で、その魅力を実感出来れば、2年後のオリンピックは更に面白く応援できる。


(竹園隆浩/スポーツライター)


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