
バレーボールの世界三大大会のひとつ、ネーションズリーグ(VNL)の男子大会が6月10日に開幕。予選ラウンド第3週(7月8日~)は男女ともに大阪で開催される。23年大会では銅、24年大会では銀と2大会連続でメダルを獲得した男子日本代表も、前回はまさかの6位。その後の世界バレーも予選ラウンドで敗退と、苦しいシーズンをおくった。2大会ぶりの表彰台を狙う選手たちの素顔を、自身も中高でバレー部に所属(セッター)し、入社直後の98年から現場取材を重ねてきた、実況のTBS新タ悦男アナウンサーがリポートする(第5回)。
「今の自分はまだまだ未完成」
石川祐希(30、日本代表主将)は、キャリアの安定ではなく、 “もう一段上の世界一”に近づくための進化 を選んだ。
石川は“完成”ではなく、 “未完成であることの自覚” を持っている。
そしてその未完成を埋める場所として、 トルコが最適だった。
「自分の目指す世界一のプレーヤーという背中には、だいぶ近づいている。今シーズンに関して、怪我の影響もあって、メダルに絡む本当の勝負どころの戦いが、僕はコートの上でまったくできなかった。その悔しさはもちろん強くある。これから先、またそういう世界一に挑む機会はいくらでもある。そこでしっかりと、自分が活躍して、メダルだとか、タイトルを自分の力で取れば、もっと世界一に近づくはず」
石川は、理想と現実の差を冷静に見つめている。 その差を埋めるために、彼は“変化”を選んだ。
「自分の技術(スキル)的にも、まだまだ世界トップ相手に伸ばせる部分はたくさんある。『自分はもっと、上の次元のプレーができる』と自分でも強く思っている。世界の頂点から見たら、今の自分はまだまだ未完成。『ディフェンス』や、『ブロック』、あとは『ジャンプサーブの効果率』に関しては、まだまだ自分の中で伸び代は大きくある。『スパイクの決定率の高さに関しては、僕の方が絶対に高くできるな』という絶対的な自信が普通にある」
トルコのジラート・バンク・アンカラへの移籍を決断
「今シーズンのペルージャでの僕に求められていた一番の役割は、点数を取ることじゃなくて『ディフェンス』だった。『レセプション(サーブレシーブ)』だった。そこの起用はバランス的にも、今シーズンはアタッカーの自分としてはコートの中で難しかった。今の自分には『ディフェンス』と『サーブ』、レセプションのさらなる返球率と、サーブの効果率を、世界一のプレーヤーになるためには、圧倒的に伸ばさなければいけない課題と痛感している」
石川は、自分がまだ未完成であることを知っていた。だから成長できる環境を探した。その答えが、トルコだった。
世界バレーで日本を粉砕した、トルコ代表監督、スロボダン・コバチはトルコリーグについてこう語る。
「トルコはフィジカルが強いリーグ。背も高いし、力もある。サーブ、ブロック、カウンターが強み。トルコのリーグで勝つことは、どのチームにとっても決して簡単なことではない。ここは非常に競争力が高く、戦術的にもタフなチームがいくつも揃っている。勝つためには、まず自分たちが国内リーグの中で最もミスが少なく、タフな集団にならなければならない。精神的にも技術的にも強くあり続けなければ勝つことができない」
今自分の成長に必要なもの満たすのに、新たな視座を得るために完全に一致したのはトルコだった。トルコこそが自分を進化させる舞台だった。
世界と戦う上で日本が必要なもの
新たなシーズンを前に代表へ戻った石川。ペルージャで積み重ねた経験は、日本代表が世界と戦うために必要なものを、より鮮明に映し出していた。
ペルージャで得た“本物の自信”は、 そのまま日本代表の課題と直結している。日本が世界と戦う上で最も不足しているのが、 まさに“ペルージャが持っていた強度”だからだ。
「ペルージャでは日々の毎日の練習の段階から、自分たちのミスに対して、もの凄く厳しく、徹底してやっている。基本的にコートの中での“ミスが世界一少ないこと”が最大の武器。すべての繋ぎのコンビの“クオリティ(精度)”が異常に高い。 レシーブが上がってからの“サイドアウト(切り返し)”の決定率の高さが、僕たちの絶対的な一つ強みだった。そこが試合の中で常に綺麗に取れていれば、世界のどこが相手であっても『絶対に負けないな』っていう絶対的な手応えがコートの中にあった。
さらに言えば、大舞台での修羅場の試合を戦っていく上で、この1本のレシーブ、この絶対に落とせない勝負どころの“大事な1本”っていう局面を、人生の中で“経験する回数(場数)”が、圧倒的に多い。極限のプレッシャーの中で戦っている回数がどの選手とも違う。そういうプレッシャーのかかる場面に、自分の心が“慣れている(アジャストできている)”ところも、すごく大きい。
極限の場面に普段のリーグから慣れている、その緊迫した瞬間であっても、いつも通りの“通常のプレー”ができる。日々の練習通りのクオリティのプレーがコートの上でブレずにできているから、プロセスでその大事な1点も、世界相手にしっかりと取れている。 もちろんシチュエーションによっては『本番のこの1本』と『日々の練習の1本』は全く重みが違う。でもその本番の1本を、まるで“『練習の1本のように、リラックスして無駄な力を抜いてできている経験・技術』”は、ペルーシャのメンバーは世界の誰よりも多い。だから、どんな大会でも最終的に上手くいく」
“本物の自信”=場数から生まれる技術。その準備に対して、取り組みに対して石川は求める。日々の地道な練習の積み上げから生まれる『本物の自信』。大舞台での勝ち切る経験値が圧倒的に多いからこそ得られるものが大きい。
世界のトップと戦うためには、 “極限の場面で勝ち切る経験値”が絶対に必要になる。 ペルージャで積んだ修羅場の場数は、 そのまま日本代表の武器になる。
石川が進化すれば、その背中がチームの基準になる。 個人の進化が、チーム全体の進化を引き上げる。
ここで石川は、こう続ける。
「今回VNLでは決勝ラウンド進出をすることは、チームにとって間違いなく絶対に必要になる。昨シーズンも、決勝ラウンドに進み、結果としてはベスト8で負けたが、『世界のトップが集まる決勝ラウンドに毎年当たり前に進む』ことは、今の日本代表として最低限のやるべき義務。トーナメント戦は、一発で負けたらそこで全部終わり。負けたら終わりになればなるほど、コートにかかるプレッシャーがもの凄く重くなる試合になる。極限の重圧での真剣勝負を経験することは、今の日本の若い選手たちにとって何よりも大切なこと。さらに準々決勝、準決勝、決勝と上がっていく中で、準々決勝よりも、準決勝の方がもっとお互いのプライドがぶつかり合って白熱した戦いにはなる。そして準決勝よりも決勝・3位決定戦も含めて、メダルをかけた世界のトップ4だけの極限のシチュエーションをコートの上で経験すればするほど、僕はチーム全体の経験値としても、個人のメンタルとしてもグングン上がっていくと思う」
完成に近づくほど、未完成を知る。
だから石川祐希は、今日も問い続ける。
「やりきったか?」と。
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