
大の里と豊昇龍の「大豊(たいほう)時代」は来ているのか――。3月の大相撲春場所(エディオンアリーナ大阪)は関脇・霧島が12勝3敗で3度目の優勝を飾り、大関再昇進を果たした。懸賞総数は2481本(1本7万円)で、地方場所の最多記録を更新。人気は相変わらずだ。しかし、本来は主役のはずの両横綱には不甲斐なさが目立った。綱とりの安青錦の不振はあったが、またしても誰が優勝するのか分からない「混戦場所」を演出した最大の責任は、2人の横綱にあると言ってよいだろう。
白星を挙げられないまま、4日目に早くも休場したのは大の里だった。昨年九州場所13日目の安青錦戦で左肩を痛めてから、本来の鋭い攻めが影を潜めている。今でも左は完全には使えないのだと思う。初日に自ら引いて若隆景に押し出されると、2日目の新小結・熱海富士戦も引いた。3日目には今度は若手小兵の藤ノ川の引き技に自ら両手から落ちた。
初日からの3連敗は力士生活初の経験だ。もどかしさと迷い。自分を見失い、自信までも失っているように見えた。本人は「立ち合いがよくない。体は大丈夫」と強調していたが、師匠の二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)と相談して休場を決断した。
一方、昇進後の初優勝を目指した豊昇龍は中日8日目までに2敗したものの、終盤までは優勝争いに絡んだ。しかし、12日目に1差の首位・霧島に上手投げで敗れ、直接対決で並ぶ好機を逃した。さらに2日後の14日目には、その霧島が安青錦に敗れた直後に大関・琴桜の外掛けに屈した。同じく2差で追っていた平幕・琴勝峰も敗れていたため、「負け」「負け」「負け」で、千秋楽を待たずに霧島の優勝が決定。それをアシストする形になってしまった。
これにはいつも力士を思いやるコメントの多い八角理事長(元横綱・北勝海)も、さすがに厳しく指摘するしかなかった。「情けない負け方だった。気持ちが乗っていない」。横綱としての存在感を示す勝負所の終盤で頼りない敗戦が続いた。相撲協会のトップであり、また同じ綱を締めた者として憤りを隠しきれなかった様子だ。
豊昇龍は大関で2度目の賜杯を抱いた昨年初場所以降、横綱として7場所、優勝に届いていない。しかも、この間、平幕に敗れる金星配給はこの場所の2個を含めて15個。1場所2個は許している計算が続く。一方、昨年3度の優勝を飾った大の里も、昇進後5場所で優勝は1回(昨年秋場所)。こちらも金星配給は春場所の2個を含めて11個となり、豊昇龍と同様のペースだ。
場所後の横綱審議委員会でも苦言は続いた。大島理森委員長は、「大の里関にはともかく体をしっかり治して、次の場所を目指して欲しい。強い横綱をファンは期待している。豊昇龍関は最後まで優勝争いに加わったが、さらに強い横綱になって頂いて、横綱という重い責任を果たす姿を見せて欲しい。両横綱には期待と同時に今後の努力を大いにお願いしたい」と懇願するように話した。
青森出身の大島委員長は今年の9月で80歳になる。地元出身の初代横綱・若乃花のファンだったそうで、名横綱・栃錦との「栃若時代」になぞらえて昨年秋場所、大の里と豊昇龍で16年ぶりとなる横綱同士の優勝決定戦になった時に「両横綱の『大豊時代』がきた。あっぱれ」と喜んだ。ただ、その後はその言葉はなかなか出る場面がなくなり、この日の会見でも発せられることはなかった。
角界は2人の横綱が並び立ち、土俵を引っ張る姿がファンを熱狂させてきた。「栃若」以降も、大鵬と柏戸の「柏鵬」、輪島と北の湖の「輪湖」、曙と貴乃花の「曙貴」らが有名だ。玉の海の急死に伴い、わずか10場所で終わったが、北の富士との「北玉」も印象に残る。大鵬、柏戸と同じ同時昇進した2人は、もしも、玉の海に不幸が訪れなければ、土俵を盛り上げる黄金時代を築いていたかもしれない。
スピード昇進で角界の記録を塗り替えてきた大の里と、叔父の朝青龍との比較からの脱却を目指してきた豊昇龍。2人の横綱が夏場所以降、どんな巻き返しを見せるのか。それによって、人気が続く令和の大相撲界は「混乱」が続くか、「安定期」に入るか、が決まる。その時に「大豊時代」が本物なのかも、明らかになるだろう。
(竹園隆浩/スポーツライター)
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