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女子100mハードル初の12秒7台対決を実現させた中島ひとみの2レース連続世界陸上標準記録突破と、日本記録保持者・福部真子の底力【オールスターナイト陸上】

スポーツ
2025-08-12 12:31

2025オールスターナイト陸上(実業団・学生対抗)は8月9日、神奈川県レモンガススタジアム平塚で行われた。注目の女子100mハードルは、中島ひとみ(30、長谷川体育施設)と福部真子(29、日本建設工業)が、1台目のハードルから2人が同時に越え続けていく大接戦が展開され、フィニッシュ直前で中島が僅かに前に出た。中島が12秒71(追い風1.1m)で福部に0.03秒差で競り勝った。中島は7月23日のフィンランドの試合でも12秒71(日本歴代2位)で走り、東京2025世界陸上参加標準記録の12秒73を突破。代表入りを確実にしていた。12秒69の日本記録を持つ福部も、体調が万全でない中でも12秒74の自己サード記録と健闘した。日本人2選手が12秒7台で走った初めてのレースは、どんな背景で実現したのだろうか。


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「世界陸上に向けてパーツを増やしたい」(中島)

日本初の12秒7台決戦は、中島が2レース連続12秒7台で走ったことで実現した。
昨年までの自己記録は12秒99。7月の日本選手権予選で12秒81(その時点で日本歴代3位タイ)に縮めていたが、標準記録の12秒73にはまだ差があった。だが17日後のフィンランドの試合で中島は、一気に12秒71まで記録を縮め標準記録を突破した。自己記録を2試合で出している特殊なケースだが、12秒71はセカンド記録日本最高記録である。


女子100mハードルは日本選手権終了時点で、世界陸上代表内定選手が出なかった。その後は日本選手権入賞者で標準記録を破った選手が代表選考のトップ項目となる。複数現れた場合は日本選手権の上の順位から選ばれるため、日本選手権2位の中島は12秒71で走った時点で代表入りが確実になった。


世界陸上に向けて試合には出ず、練習に専念する選択肢もあったはずだ。だが中島は、国内レースにも出場した。


「フィンランドのレース映像がまったくないので、“こいつ本当に(12秒7台を)出したのかな”と思われている心配もあったので、この大会の走りでしっかり証明したい気持ちもありました」


福部は日本記録保持者で、日本選手権準決勝では12秒75(無風)を出している。1か月前の試合で敗れ、悪いイメージで世界陸上に臨むことになる可能性もあったが、中島は「世界陸上に向けてパーツを増やしたい」気持ちが大きかった。


「1カ月後に自分がより良いパフォーマンスをするために、パーツを集めたかったんです。この(少し強めの)追い風の中で走りたいと考えました」


パーツの1つとして、ハードルへの踏み切り位置の調整に重点を置いていた。日本選手権では中島のやりたい位置より近い踏み切りになっていた。遠い位置からの踏み切りを行うことで、ハードリング時の頂点がハードルの真上になり、上方へ跳び過ぎることがなくなった。それに伴って抜き脚の遅れも矯正できて、アップしている走りのスピードを生かすことができるようになったという。新しい部分を求めた結果、中島は2試合連続で日本記録に0.02秒と迫るタイムを出すことができた。


「(12秒7台で)走れるほど悔しい」(福部)

今シーズンの福部は、完全な準備ができずに試合に出るパターンが続いている。12秒69(追い風1.2m)の日本記録を出したのが、昨年7月20日のオールスターナイト陸上だった。福部は22年オレゴン世界陸上と、昨年のパリ五輪で準決勝に進出した選手。12秒73の標準記録は難しくないと、自他ともに認識していた。


だが昨秋に菊地病(組織球性壊死性リンパ節炎)を発症。不定期に発熱し、練習を中断せざるを得ない状況が続いている。それに加えて左ヒザと右アキレス腱にも痛みを抱えている。今季は5月末のアジア選手権を欠場。アジア選手権は世界ランキングのポイントが大きい試合で、標準記録を突破できなかったときのことを考えると大きなマイナスだった。


日本選手権前は少し練習を積むことができて、準決勝で12秒75をマークした。しかし現時点では連戦ができない体の状態のため、決勝は12秒93(向かい風0.4m)の3位に終わった。それでも「12秒5台中盤は見えてきました。8月に標準記録を突破できると思う」と好感触も得ていた。


だが8月3日の富士北麓ワールドトライアルは12秒80(追い風0.9m)、そして今大会が12秒74と好タイムを連発したが、標準記録には届かなかった。富士北麓ではまだ「文句を言っても元気な時には戻れない、受け容れてやっていくしかない」と前向きなコメントをしていた。だがオールスターナイト陸上では「(12秒)74というタイムを見た時は、あと0.01秒はしょうがないよね、と思う反面、これだけ出せるんだったら…」と言ってしばらく言葉を詰まらせた後に、「練習したいな。普通に」とつぶやくような声を絞り出した。


世界陸上標準記録の適用期間は、福部が12秒69を出した12日後の昨年8月1日からだった。今季は日本選手権準決勝で0.02秒、オールスターナイト陸上で0.01秒、標準記録に届かなかった。


「昨年、一生懸命体を作って、絞って、何回も練習してやっと出した12秒8台、7台中盤を、練習にも値しないような練習で、アベレージとして走れています。練習さえできていたら12秒5台とかで走っているのかな、と思うと、(12秒7台で)走れるほど悔しい」


福部の苦悩が痛いほど伝わってきた。


女子100mハードルのレベルアップを象徴する2人の12秒7台

女子100mハードルは近年の記録上昇が著しい種目である。日本人初の12秒台は19年に、ママさんハードラーの寺田明日香(35、ジャパンクリエイト)が出した。まだ6年しか経っていないが、寺田が21年に12秒8台を出すと、翌22年に福部が12秒7台に突入した。その後の日本人選手の、12秒80未満の全パフォーマンスは以下になる。


◆12秒73(+1.1) NR 福部真子
 2022年9月25日 (岐阜、全日本実業団陸上)
◆12秒75(+0.8)福部真子
 2024年6月29日 (新潟、日本選手権準決勝)
◆12秒69(+1.2)NR 福部真子
 2024年7月20日 (平塚、オールスターナイト陸上)
◆12秒75(±0)  福部真子
 2025年7月5日 (国立競技場、日本選手権準決勝)
◆12秒71(+0.7)中島ひとみ
 2025年7月23日 (タンペレ、Motonet GP)
◆12秒71(+1.1) 中島ひとみ
 2025年8月9日 (平塚、オールスターナイト陸上)
◆12秒74(+1.1)福部真子
 2025年8月9日 (平塚、オールスターナイト陸上)
※NR=日本記録


福部しかいなかった12秒7台に、今季中島が加わってきた。


中島は中学時代に全日本中学選手権に優勝した選手。高校時代も日本ユースと国体で優勝したが、大学入学後は全国大会に勝つことができなくなり、主要国際大会の日本代表も経験していない。だがあきらめずに努力を続け、「周囲の色々な人たちから、積極的にアドバイスをもらう」(長谷川体育施設・石田智子監督)ことで、自身を成長させてきた。


同学年の福部も高校タイトルを取り続けた選手だが、シニアになって停滞期が長かった。しかし27歳となる22年シーズンに日本のトップに躍進した。中島もそれに触発されたかのように昨年、初めて12秒台(12秒99)をマーク。今年4月の織田記念に12秒93(追い風1.8m)で優勝し、5月のゴールデングランプリは12秒85(追い風0.7m)と記録を伸ばし、4位(日本人2位)に食い込んだ。そして7月の日本選手権で自身最高順位の2位に入ると(予選で12秒81)、30歳となって12秒71を連発した。12秒6台も目の前に迫ってきている。


「日本記録を出したからそれが1番ではなく、皆さんそれぞれのストーリーがあってのタイムの価値だと思うので、私もここまで来るまで本当に長かったので、自分にしかできない価値を、少しずつ作れていけたらいいな、と思います」


今の100mハードルの選手たちは、寺田が率先してコミュニケーションを取り、トップ選手全員がフランクに話をする雰囲気ができている。走り終えれば敵味方なく、反省会が自然と行われる。中島がフィンランドで標準記録を突破して帰国後に、国内で負けることを気にしないでレースに出場できたのは、その雰囲気が背景にあったからかもしれない。


そして22年から日本記録保持者となっている福部に、万全でなくても12秒7台が出せる底力があったから、女子100mハードル史上最高レベルの戦いが実現した。女子100mハードル全体の成長を象徴するレースだった。


(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)


※トップの写真は左が中島選手、右が福部選手(日本選手権)


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