
ドラマや映画で使われる“舞台”を作り出し、作品に説得力を加える大きな要素の一つとなる「美術」。作品の世界観を反映させたセット作りやロケーション探し、小物のセレクトまで、その仕事は多岐にわたる。
【写真で見る】堤真一さんや本田響矢さんら最新出演シーンも・・・ドラマ『GIFT』場面写真
TBS日曜劇場『GIFT』は、車いすラグビーチーム「ブレイズブルズ」(以下、ブルズ)が、宇宙物理学者である主人公・伍鉄文人(演:堤真一)との出会いをきっかけに、伍鉄本人も含めて成長を遂げていく物語が描かれている。本作で美術を担当するのが、美術プロデューサーの二見真史さんと美術デザイナーの古積弘二さんだ。
ブラックホール研究室から車いすラグビーの動線設計まで――作品の“説得力”を支える、美術制作の裏側に迫った。
「いかに“本当に存在する人たち”に見えるか」――1年がかりのリアリティー
車いすラグビーというテーマを軸に、スポーツエンターテインメントとしてだけでなく、チームメイトやその家族、友人との絆なども描かれている本作。
「企画のコアにもなるそうしたところをちゃんと描いていこうと、作業を進めていきました」と、二見さんは美術プロデューサーとしての立場から、美術を作り上げていった過程を振り返る。
立ち上がりは通常のドラマ制作の現場より「かなり早かった」と言う。最初の打ち合わせは、撮影が始まる1年ほど前。現場スタッフが本格的に合流する半年以上前から、本作の企画・原案も担当している平野俊一監督やプロデューサーと月に数回、定期的に会う機会を設け、コンセプト立てなどの事前準備を進めた。
美術デザインを手がける古積さんは、ドラマにおける美術の役割について、「“リアルに見える”ことが大前提として必要」と前置きしつつ、登場するキャラクターたちが「美術背景の中でいかにリアルに、本当に存在している人たちに見えるかを目標として、いつも以上に新しい表現がないか模索しました」と語る。
伍鉄のラボで作った“生態系”――ブラックホール研究第一人者の「助言」も
劇中にも度々登場する、伍鉄の研究室。伍鉄は大学の准教授を務めながら「ブラックホール」について研究。“天才すぎる”がゆえに周囲から孤立してしまうというキャラクターだ。
いくつかの大学にリサーチに出向き、「伍鉄のラボほどではないですが、意外とこういった雰囲気の大学は多かったですね」と古積さん。昭和の空気が漂うどこか懐かしいテイストの研究室に、大きな黒板が配置された伍鉄のラボは、そのキャラクターを象徴するセットの一つだ。
準備を進めていた最初の段階で、二見さんと古積さんは、宇宙物理学の監修として本作に携わる、“ミスターブラックホール”とも呼ばれる国立天文台水沢VLBI観測所長の本間希樹教授を訪ね、その研究室にも足を運んだ。本間教授は、国際チームが2019年に史上初の“ブラックホール・シャドウ”(ブラックホールの周囲に高温ガスが描く黒い影)の撮影に成功した際に、日本チームのリーダーも務めた。
二見さんは「本間先生のいろいろなアドバイスが、伍鉄のラボのディレクションにも生かされています」と明かす。伍鉄のラボに飾られているブラックホールの写真は、その本間教授らの国際研究チームによって撮影された、“史上初のブラックホール・シャドウ画像”として知られる一枚だ。
「本間先生のところに行った時に、国立天文台でこの写真も見せていただいたんです。ずっと記憶に残っていたので、使わせていただきました」(古積さん)
一見すると雑然としたラボには、実は伍鉄のキャラクターが反映されていると、古積さんは続ける。
「小道具チームとは普段から、『その独自の生態系が出来上がっていく』という言葉を使っているのですが、無作為に物が積み重なっているように見えても、本人の中にはきちんとした規則性がある。それが一つでも欠けると、全部崩れてしまうようなこともあると思います」と、セットの隅々までこだわっている。
クランクインの半年前には手に入れていた「ゲームメイク」用模型
2024年パリパラリンピックで日本代表が初の金メダルを獲得し、注目を集める車いすラグビー。本作でも選手役のキャストが激しいタックルを見せているように、その競技性から、かつては「マーダーボール(殺人球技)」とも呼ばれた。
二見さんは、クランクイン前から車いすラグビーの練習場に足を運び、すでに役作りの一環で練習を始めていた選手役のキャスト陣や平野監督とも意見を交わし、美術の方向性を探っていった。
古積さんは、車いすラグビーに関するアイテムも入手。それは、車いすラグビーを含めチームスポーツには欠かせない、チームを率いる中心選手が流れを読みながら試合を組み立てる“ゲームメイク”において、シミュレーションに使う模型だ。
本作の中では、エース・宮下涼(演:山田裕貴)がまさに、攻撃の起点となるゲームメイクをする中心選手として、劇中で白熱した試合を繰り広げている。「模型は、半年ほど前に演出部に渡していました」と古積さんが話すように、そうした事前準備も本作のリアリティーに一役買っている。
実際に車いすに乗って確認――「どう生活しているか」視点を変えたセット作り
競技面のリアリティーを追求する一方で、美術チームがもう一つ大切にしているのが、“車いすで生活する人々の日常”をどう描くかという点。
二見さんは、「車いすラグビー」というテーマについて、「慎重に捉えすぎてしまっていた部分があった」とも明かす。そんな中、初期の段階で「無用な覚悟や気負いのようなものを持つのは違う」と感じる変化があったと話す。
変化のきっかけとなったのは、監修の峰島靖選手や練習に協力していた実際の選手たちとの“綿密な”コミュニケーション。美術チームよりも早い段階から、平野監督やプロデューサーが峰島選手らとのやりとりを重ねることで、「人間同士として打ち解けていたんです」と二見さん。そこで、気負いは自然となくなっていったと言う。
「変な脚色はせず、“嘘”はつきたくない」(二見さん)という思いを改めて共有しながら、古積さんはセットをデザインする際に、実際に車いすを使っている人たちにも取材。ただし、車いすで生活する際の“不便さ”に目を向けるのではなく、“必要なものは何なのか”と考える視点に変わっていったと言う。
紙面上でも「ここは通れない」「この設計だとおかしい」などと相談しながら、セットごとに実際に車いすに乗って動線などを確認。セットが完成してからは、さらに「ここなら手が届くので、この位置にしよう」というように、小道具の位置も毎回変えるなど工夫している。
細部にまで積み重ねられた徹底したリサーチや、制作陣との1年近くにもわたる対話――。車いすラグビーの世界を舞台に、「人間ドラマ」を描くためのその空間づくりには、“嘘をつかない”という美術スタッフの思いも刻み込まれている。
・「コバエが、料理に一瞬だけ止まってしまった!」その料理、衛生的に大丈夫?専門家に聞いた
・“ポカリ”と“アクエリ” 実は飲むべき時が違った! “何となく”で選んでいませんか?効果的な飲み分けを解説【Nスタ解説】
・55歳母親を暴行死させた37歳男は“ヤングケアラー”だった 10歳から家事に追われた男と母親の「狂気の関係」
