
各地で老朽化した水道管が破損し、水が噴き出す事故が相次いでいる。こうした中、衛星とAIを駆使した新たな水道管の調査方法が各自治体で広がっている。
【写真を見る】“宇宙ビッグデータとAI”水道管の漏水リスクを評価 新たな調査方法が自治体に広がる【Bizスクエア】
相次ぐ水道管漏水事故 衛星・AIでリスク検知
民家の屋根よりも高く上がった水柱。先月2月24日、埼玉県所沢市で老朽化した水道管に亀裂が入り、水が噴き出す事故が発生した。2月11日には、千葉県大網白里市で水道管から激しく水が噴き出し、翌日の12日にも大阪府堺市で水道管が破断し、道路に水があふれるなど全国で老朽化した水道管から水が噴き出したり漏水したりする事故が相次いでいる。
国内の水道管の総延長はおよそ73万kmで、日本水道協会によると、2022年度時点で全体の23.5%に相当する約17万kmが法定耐用年数である40年を超えている。水道管の老朽化により、漏水調査に迫られている自治体から続々と依頼を受けているサービスがある。
JAXA・宇宙航空研究開発機構も出資する、宇宙スタートアップ企業の「天地人」が提供する「宇宙水道局」。
天地人は、2019年から世界中の衛星から得られる気象情報や地形情報、地表面温度といった宇宙ビッグデータを分析。そのデータを使って、どの農作物がどの土地での栽培に適しているか、効率的な再生可能エネルギー設備の設置場所の選定といったサポートを行っている。
その宇宙ビッグデータから得られる地表面温度などに、自治体が保有する水道管の材質や使用年数、過去の漏水の記録などのデータを掛け合わせ、天地人独自のAIで水道管の漏水リスクを評価するのが「宇宙水道局」。
天地人 事業開発担当 立石悟さん:
地表面温度が非常に高くなってくると、そこでの漏水の確率は非常に高くなってくるというようなデータも出てきている。あとは(昼夜の)温度差。温度差が非常に高くなるところは漏水の頻度が高いという結果なども出ている。
宇宙水道局は、地図上で100m四方をメッシュにわけ、漏水リスクを5段階で表示。自治体はこのリスクマップを基に、優先順位をつけて効率的に調査を行う。
サービス開始前に愛知県豊田市で行われた実証実験では、宇宙水道局が漏水リスクが高いと分析した249の区域のうち65区域で実際に漏水が発生していて、その有効性が評価された。去年2024年、当時の岸田総理大臣がこのサービスを視察するなど政府もデジタル技術を活用した水道管管理に注目している。
岸田総理大臣(当時):
この技術は全国に広げて活用してもらう。是非そういった取り組みを進めたい。
衛星・AIで漏水リスク検知 効率的な調査でコスト削減
学習を繰り返すことでAIの精度が高まる。宇宙水道局の費用は水道事業の規模にもよるが、年間で約数百万円。2023年からサービスを開始し、現在は東京都や福島市など20以上の自治体で利用されている。その中のひとつ、静岡県磐田市では…
磐田市環境水道部上下水道工事課 松尾聡幸さん:
効果としてはすごく大きいかなと実感している。
約17万人が住む静岡県磐田市の水道管は、総延長1390km。磐田市では漏水調査を専門業者に委託していて、わずか2人のスタッフで市の全体を調査している。調査員が徒歩で数10センチおきに地面の中の音を聞くことで水道管の異常を見つける。
調査スタッフ:
図面を見ながらその上を歩いていくようなかたち。(1日で)3~7kmの間ぐらいじゃないかと思う。
音を頼りに調査するため、交通量の多い道路の近くでは作業が思うように進まないという。
調査スタッフ:
特にトラックとかスピード出す車とかは結構音がそのまま反響してくる。(夜間のほうが)やりやすいが、このご時世、闇バイトかと怪しまれたりもするので、日中にできるところは日中になるべくする方がいい。
こうした地道な漏水調査も今年2025年1月から宇宙水道局を活用したことで、大幅な効率アップにつながったという。
磐田市環境水道部上下水道工事課 松尾聡幸さん:
(以前は)経験と勘によるところが多かったが、宇宙水道局の導入によって、漏水リスクの高い箇所の絞り込みができたので、より正確な精度の高い調査ができていると感じている。
漏水リスクが高いと分析された現場。地表では異常が見られない。しかし、地面を掘ってみると水道管に亀裂があり、勢いよく水があふれている。このまま放置されていたら地面が陥没するおそれもあったという。
磐田市環境水道部上下水道工事課 松尾聡幸さん:
きのうまで(約1か月間)で75件の漏水箇所が見つかっている。件数としては多い。これが事故になる前に未然に防げたというのは効果として、すごく大きい。
磐田市が過去に行った試算では市内すべての水道管の漏水調査には、期間が12年、費用がおよそ1億円かかることがわかった。今回、調査対象をリスクの高いところに絞ることで3か月で調査が終了し、費用を大幅に削減できたという。
一方で、磐田市では全体の25%を占める法定耐用年数を超えた水道管の更新も迫られている。水道管を新しくするのに、1kmあたり約2億円かかるといわれており、こちらも宇宙水道局を活用し、破損リスクの高いものから優先順位をつけて進めていくとしている。
水道管の老朽化による漏水への対策は自治体の財政を圧迫している。メンテナンス費用などを確保するため、来月4月、水道代を平均でおよそ40%も値上げする埼玉県の本庄市のような自治体も出てきている。天地人では今年2025年、水道事業の維持に困窮している自治体に対して、あらたなサービスを開始する。
天地人 樋口宣人COO:
下水に関しても、上水道と同じように様々なリスク診断・評価するサービスを展開しようとしている。前からそうした評価をするための準備をしていたが、(埼玉県八潮市で)事故が生じてしまった。我々としても忸怩たる思いがある。
天地人は2027年に自社で衛星を打ち上げ、リスク評価の精度をさらに高めていくとしている。
天地人 樋口宣人COO:
宇宙ビッグデータの活用についてはまだまだ無限の可能性があると思っている。自分たちが持てる科学だとか、技術だとかそうしたものを活用して、住民の方々が安心安全に将来に向けて希望が持てるような社会を構築していきたい。
財政圧迫で水道料金値上げ 老朽化インフラをどう維持?
どうやって宇宙からリスクが認定できるのか。まず衛星から地表面の温度や地盤変動などのデータを取り、水道課の情報、人口密度といった地上データを掛け合わせてAIで漏水リスクが高い場所を特定している。これによって点検費用が最大65%も削減される。
――この取り組みをどう思うか?
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
今回のように上下水道のインフラに対して、人件費を減らしながら、本当に危ないところに修理することが、これから重要になる。橋やトンネル、高速道路も同じように全部老朽化している。それだけを修正・修理する予算がないから、こういう技術はすごく大事だと思う。あともう一つ、気候変動で集中豪雨や洪水など気温の上昇や、台風などがあるので、それらを予測して、どこが傷みやすいかというのを見ていくことも同時に必要だと思う。
日本の場合は戦後の復興期に集中してインフラが整備されたので、老朽化も一斉に来る。水道も耐用年数を一斉に迎えている。水道課の法定耐用年数は40年。それを超えた割合が2022年度は23.5%、つまり4分の1は法定で超えている。
それを交換する費用は総額で34兆円。水道管の漏水事故が年間2万件発生しているので、かなり厳しい状況。
――人口も減っていくなか、維持していくのも大変だ。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
全部に対して補修することは難しいと思う。特に地方の場合だと、集中していくという形になる。こういう技術を使って、できるだけコストを節約するというのは大事だ。
(BS-TBS『Bizスクエア』 3月8日放送より)
・スマホのバッテリーを長持ちさせるコツは?意外と知らない“スマホ充電の落とし穴”を専門家が解説【ひるおび】
・「パクされて自撮りを…」少年が初めて明かした「子どもキャンプの性被害」 審議進む日本版DBS “性暴力は許さない”姿勢や対策“見える化”し共有を【news23】
・【検証】「布団の上に毛布」が暖かい説 毛布は布団の「上」か「下」か 毛布の正しい使い方【Nスタ解説】