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小泉悠氏に聞く「ドローンが変えた戦争」~主力兵器化したドローンとウクライナ戦争をめぐる現状~【調査情報デジタル】

海外
2026-07-11 09:00

ロシアとウクライナの戦争は開戦から4年以上が経過し、消耗戦の様相を呈している。この戦いで「戦争のゲームチェンジャーになった」と指摘されるのが、ドローン(冒頭の写真はウクライナ企業が開発した次世代の迎撃ドローン)などの無人兵器だ。ロシアや旧ソ連諸国の軍事・安全保障政策に詳しい東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠准教授に、ロシアとウクライナのドローン開発競争の実態や日本がこの新たな局面にどう対応すべきかについて聞いた。


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両軍合わせて最大50万人の戦死者を出すも戦況は膠着状態

――ロシアが2022年2月にウクライナに侵攻したことによって始まった両国の戦争は、すでに開戦から4年以上が経過しています。現状をどのように見ていますか。


小泉 軍事的には全体的に膠着していると見たほうがいいと思っています。ウクライナのドネツク州南部からザポリージャ州の境のあたりで大変な激戦になっているものの、戦況図は何年も大きく変わっていないからです。


この間、ロシアがじわじわ押し込んではいますが、ウクライナを屈服させるには至っていません。かといって、ウクライナもザポリージャ州で反攻しているものの、3年前に失敗した反攻作戦と同じことを今年に入って行っています。これだけではロシアをこの地域から追い出すことはできないでしょう。 


――今年6月時点で戦死者はどれくらいの人数になっているのでしょうか。


小泉 ロシア兵の死者数は、少し前まで25万人から30万人くらいと言われていました。最近では5月にイギリスの情報・サイバーセキュリティ機関が約50万人という数字を出し始めました。しかし、情報戦も行われていますので、私はこの数字は怪しいと思っています。


信用できるのはBBCとロシアのインターネットメディア「メディアゾーナ」による集計です。身元が完全に把握できている死者の数が約22万5000人で、実際の死者数は最大で約35万2000人にのぼる可能性があると6月5日時点で見ています。私は30万人前後と考えるのが中立ではないかと思っています。


一方、ウクライナ兵は身元が確認できている死者数が約14万人で、戦場での行方不明者を入れると20万人弱と見られています。


――ということは、両軍あわせて最大で50万人が戦死した可能性があるわけですね。


小泉 1年に12万人から13万人の兵士の命を飲み込んでいく戦争を、もう4年以上続けています。これほど長い戦争は、第二次世界大戦以降は他に例がありません。しかも、今年6月11日の時点で第一次世界大戦の1568日間を超えました。少なくとも20世紀以降ではヨーロッパで最長の戦争ではないでしょうか。


――当初は国力を考えると、ロシアが圧倒的に有利だと考える人が多かったと思います。そうなっていない理由は何だと思われますか。


小泉 大きく2つ理由があると思います。1つは味方をする国の数です。この戦争では戦場で残骸分析が行われていて、どの国の弾が使われているのかが分析され尽くしています。ロシアに弾を支援しているのは北朝鮮とインド、イランくらいです。中国はロシアからエネルギーを購入し、軍民両用のデュアルユース技術をロシアに売っているものの、弾は売っていません。アメリカやヨーロッパから軍事援助を受けていて、世界中から人道援助も届くウクライナと比べると、ロシアに味方する国は圧倒的に少ないですね。


もう1つは、国力の全てを戦争に投入できるかどうかです。これはその国の社会的・政治的文脈によって決まります。しかし、ロシアは戦争に投入が可能な男性人口の全てを動員できているわけではありません。プーチン大統領が国民からの支持を維持しながら戦争をするためには、国民全員を犠牲にすることはできない枷があらかじめはまっています。一部の人を高額な報酬で釣って戦地に行かせることしかできていません。


一方のウクライナも、国家を再建するためには若者が必要で、戦場に動員する年齢に枷がはまっています。動員対象は当初27歳以上だったのを、現在は25歳以上としているものの、さらに引き下げる状況にはなっていません。ただ、国家存亡の危機なので、ウクライナの方が相対的に課せられた制限は小さくなっているといえます。


ドローンが主力兵器化した初めての戦争

――ロシアとウクライナの戦争では、ドローンが戦争のゲームチェンジャーになったと言われています。ドローンがこの戦争にどのような影響を与えていると思われますか。


小泉 今回はドローンが主力兵器になった、初めての戦争ではないかと思っています。いわゆる無人偵察機のようなものは以前から使われていました。まとまった数の無人機が使われたのはベトナム戦争です。その後、アメリカやイスラエルの対テロ作戦でドローンが戦闘兵器として使われたほか、2020年のアルメニアとアゼルバイジャンの第2次ナゴルノ・カラバフ紛争でもドローンが大々的に使われました。


ただ、これらの作戦や紛争で使われた軍用ドローンは大きくて遅いので、対空ミサイルを持つ正規軍相手には役に立たないだろうと思っていました。実際にウクライナもこの戦争で使いましたが、簡単に打ち落とされました。そこで出てきたのが、いわゆるFPVドローンです。


――FPVドローンは、搭載されたカメラの映像をゴーグルやモニターで見ながら操縦するドローンですよね。


小泉 私はFPVドローンをおもちゃだと思っていました。それが、ものすごい威力を発揮し始めます。最初は偵察に使っていたのが、手榴弾をくくりつけて攻撃を始め、地雷を撒くのにも使われ始めました。他にも最前線に食料や医薬品を運ぶなど、ありとあらゆることに使われ、そうこうするうちに無人水上艇や無人地上ロボットも出てきました。兵隊を危険にさらさないように、ロボットでできることはロボットでやる方向を一気に決定づけました。


――FPVドローンの使用はウクライナ側からですか。


小泉 FPVドローンも含めて、新しいことにはウクライナ側がまず先に手をつけます。現地の部隊が創意工夫しながら、使えるものと使えないものを選別して、現地で改造して使ってみます。それが国防省の目に留まると大規模な予算がつきます。


一方のロシア側は、その様子をしばらく見ながら背後で同じようなものを大量生産して、ある時突然大規模にぶつけます。そしてウクライナ側がまた改良するといったパターンを繰り返しています。


ウクライナが使用するFPVドローンは、もともとあるものを改造して前線に出しています。ソフトウェアが良くないと言われれば、その日の夜のうちにプログラマーが必死に改良するそうです。兵器メーカーの人たちからすると卒倒するような速度で開発が進んでいて、これが最新の状況ではないでしょうか。調達のサイクルの繰り返しと、改良のサイクルの繰り返しが、ものすごい速度で起きています。 


ロシアとウクライナによるドローン攻撃とその威力

――兵器としてのドローンの特徴はどこにあるのでしょうか。


小泉 究極に機動性があることです。重要なのは、どこで機動するかだと思っています。飛行機が20世紀に出てきて、空が戦場になったわけですが、飛行機は少なくとも1000メートルか2000メートル上空を飛びます。それに対してドローンは、飛行機で飛ぶには危険な100メートルくらいの低いところを飛んでいます。このため、ドローンで偵察することで、お互いが丸見えになり、奇襲ができなくなりました。


また、攻撃では低いところを好きなように動くことができて、一番階級が高そうな相手を見つけたら狙い撃つこともできます。先日来日したウクライナのドローンメーカーのジェネラル・チェリーの関係者が「これでスナイパーがいらなくなった」と話していました。


ウクライナの公表資料では、年間400万機各種ドローンを生産しています、つまり、1日1万機強のドローンを作って、全戦線で使っていることになります。


――他にもいろいろなタイプの無人兵器が登場していますね。


小泉 無人水上艇、いわゆる水上ドローンも威力を発揮しています。私が驚異的だと感じたのは、海軍を持っていないウクライナが、無人水上艇や自爆ドローン、それに巡航ミサイルなどを組み合わせた結果として、ロシア黒海艦隊をほとんど追い出したことです。


無人水上艇が湾に入って攻撃し、同時に空からも攻撃します。一種のシステムとしてロシアの海上戦力を封じ込めているのが現状です。


――ロシアによるドローンや無人兵器の使用はどのような状況でしょうか。


小泉 ロシアはロシアで、自分たちで作っていますし、中国からも輸入しています。ロシアが使っている無人兵器で威力があるのがシャヘド(もとはイラン製)です。ただ、シャヘドはドローンというよりは巡航ミサイルの廉価版のような感じです。ファイバーグラスのようなものを樹脂で固めて作っていて、池にあるスワンボートと同じような素材でできています。


このため機体は安く作ることができて、装置は外国から汎用品をかき集めて組み立てています。その上で先頭に35キロ爆弾を載せて、遠隔操縦をすることなく決まったコースを飛んでいきます。ロシアはシャヘドを戦略爆撃のために使っています。 


――遠隔操作ができなくても、攻撃としては効果があるのですか。


小泉 私はそこそこ効果があると思います。というのは、その数がとてつもなく多いからです。シャヘドの工場はタタルスタン共和国のアラブガと、ウドムルト共和国のイジェフスクの2か所にあります。アラブガは戦争が始まる前は何もありませんでしたが、ドローン工場として接収されるとどんどん拡張して、今ではシャヘドを月に6000機生産できます。これは、1回に600機のシャヘドを動員した空襲を月に10回できることを意味します。


ウクライナ側も迎撃ドローンを生産してかなり打ち落としています。迎撃率は85%から90%くらいで、かなり高くなっているものの、それでも60機程度は落ちてくることになります。最近は爆薬が50キロのものもあり、1回の空襲で5人から10人の市民が亡くなっています。集合住宅が狙われるので、一家が全滅するケースも多くなっています。国家は滅ばないけれども、確実に市民が殺され続けるため、社会にとってはストレスフルな状況です。


ウクライナのドローン開発の柔軟性とAIによる自律化

――ドローン技術としては、ウクライナがより進んでいる印象です。背景にはどのようなことが考えられますか。


小泉 ウクライナの方が、人命の損失に対してよりセンシティブにならざるを得ないことが挙げられます。それと、目新しいことを始めやすい土壌があります。2014年にロシアがクリミア半島を占領したときは、ウクライナの正規軍はボロボロでした。そこで各地に自警団が作られて、武装化していました。そういう部隊がたくさんウクライナ軍の中にあり、今も自活しています。


――自活というのは。


小泉 自分たちでクラウドファンディングをして金を集め、武器を買い込み、自分たちで改良しています。国家の意思決定があって動くのではなく、現場で工夫しながら動いています。日本の自衛隊が同じことをしたら政治問題になりますが、ウクライナ軍がものすごく柔軟性を発揮してロシア軍に負けずにここまで来たことは間違いないので、ある程度学ぶべきことがあると思っています。


それに、軍事イノベーションを促進するためのファンドを国防省とDX省と経済省が共同で作って、省庁横断で軍事スタートアップを支援しています。現在では兵器の50%は国内で生産されているようです。


興味深かったのは、政府系の機関が軍隊向けにAmazonのようなサービスをする「Amazon of War」を立ち上げていたことです。前線が必要としている医薬品や食糧などをネット上で注文すると、翌日には届けられます。このようなことを可能にしているのは、現在の国防大臣が前DX大臣であることも大きいと思います。


――ドローンの今後については、どんなところに注目していますか。


小泉 AIの搭載による自律化ですね。現状ではAIを積むと、重いコンピューターを搭載する必要があって、ドローンの機動性を失わせる可能性がありますが、今後はコンピューター自体も軽くなり、AIも簡単な環境で動くようになっていくと思います。


ウクライナを今年4月に訪問した際、唯一AIを積んでいると説明されたのが、地雷除去に使うドローンでした。地雷が埋まっていそうな野原を調査して、機上でAIが分析し、危険な場所を送信してきます。データが届いてから分析するよりも早く把握できます。


この技術は偵察衛星でも使われていて、アメリカでは衛星に載せたAIが有用な写真だけを選んで送ってきます。私も朝撮影されたロシア上空からの衛星画像を、昼には確認できます。AIによる意思決定や判断の高速化は、ますます進んでいくでしょう。


――アメリカではAIの軍事利用について、アンソロピック社が完全自律型兵器などにAIを使うべきではないとして、トランプ政権と対立しています。この点についてウクライナはどのように考えているのでしょうか。


小泉 国家存亡の危機なので、ウクライナはおそらく気にしていないでしょう。イスラエルは自動で目標を識別するAIを搭載したドローンを出してきています。


実は、人間による介在がなくても兵器がフルオートで作動する仕組み自体は以前からあります。日本の海上自衛隊のイージス艦も、全自動モードにすれば艦長以下人間が何もしなくても攻撃します。ただ、AIに任せるのはリスキーであることに変わりはなく、陸上での戦いでは様々な要因があって自動化はできていない状況です。


――ドローンの開発は、中国もかなり進んでいると思いますが。


小泉 中国はとてつもない数のドローンを生産していて、安価に供給することができます。民間企業が年間数百万機から数千万機と大量生産しているため、個々の部品の価格とクオリティ、量産性は、ウクライナが官需でいくら生産しても比べものにならないでしょう。


中国のドローン大手DJIが販売している機種で最もグレードが高い「マヴィック」については、中国がウクライナやヨーロッパに対して輸出規制を行っています。その一方でロシアには供給しています。だから、ウクライナやヨーロッパのドローンメーカーは、一様に「チャイナフリーを達成したい」と言っていますね。


日本はウクライナから何を学び、何を備えるべきか

――ドローンという新たな兵器が登場してきた状況で、日本はどう対応すればいいのでしょうか。


小泉 自衛隊はこれから小さくなっていくと思います。自衛隊全体の定員は約24万7000人で、現員は約22万人です。人口減少が今のままで推移すれば、2040年には自衛官が13万人くらいになるとの見方もあります。人数が増えないどころか、減っていくことは確実です。仮に中国の人民解放軍が同じペースで縮小したとしても、おそらく100万人規模の軍隊を維持できるでしょう。


こういう状態で中国に変な気を起こさせない抑止力を維持することを考えると、私は自衛隊のロボット化は必要だと思っています。ただ、ロボットをたくさん導入して、いろいろなものをネットワークにつなげることは必要条件ではあるけれども、十分条件ではありません。ウクライナの状況を見て重要だと思うのは、エコシステム(注)を作れるかどうかです。新しい技術を使いこなすための土壌を作ることが、今一番必要ではないでしょうか。


(注)エコシステム…本来「生態系」を意味する言葉だが、ビジネスで用いられる場合は、多様な企業による連携や協力を通じ共存共栄する枠組みを指す


――ウクライナに学ぶこともたくさんあるということでしょうか。


小泉 ウクライナに学ぶべき事例があることは、多くの方々が指摘されています。いろいろな戦闘を共有するためのパイプを作ることも1つです。


日本政府は2025年度補正予算で、今年6月に北大西洋条約機構(NATO)の「ウクライナの優先必要品リスト(PURL)に約22億円を拠出しました。PURLのリストからはウクライナが今必要としているものや数量がわかるので、PURLの枠組みを通じて現代戦を学ぶことができると思います。


それと、NATOはウクライナと演習をしているので、自衛隊も合同演習に参加して学んだ方がいいと思っています。


他方で、日本は海に囲まれた国なので、ウクライナの経験がそのまま生かせるわけではありません。戦争になった場合、最初の戦闘は海になりますし、離島のジャングルでの闘いになる可能性が高くなります。我が国の防衛のことなので、我が国で考える主体性も当然必要です。


――国産ドローンを生産する民間企業では、テラドローン社(東京都・渋谷区)が防衛装備庁の入札で「モジュール型UAV(汎用型)教育用」300式の製造請負を1億1500万円で落札し、今年5月に契約を結びました。また、6月にはウクライナのドローン新興企業2社を買収しています。この動きをどのように見ていますか。


小泉 テラドローンが買収し、子会社化した2社は迎撃ドローンを開発していて、ロシアとの戦争でも使われています。日本技術安全保障戦略機構(JISDA)も、今年3月にウクライナの現地拠点を設立しました。JISDAによる現地調査報告書は詳細です。ドローンの世界では、日本発の技術や、日本の企業が戦闘に参加しつつあると言っていいと思います。


防衛省が進める無人アセット(無人装備品の総称)による多層的沿岸防衛体制「SHIELD」も、海空ドローンを展開する構想です。とはいえ、ドローンは大きなシステムの一部です。国家安全保障戦略の改定が現在進められていますので、ドローン戦への対応を含めた包括的な防衛政策を考えてほしいと思います。


ただ、過酷な戦いをしているウクライナとロシアの開発スピードに、平時の国がついていけるかというと難しいのも事実です。ドローンのような軍事技術をどれくらい国産できるのか、有事の際にできることを制度的に、または産業能力的に広げていくことが現実的ではないかと思っています。


「調査情報デジタル」編集部


(プロフィール)
小泉 悠(こいずみ・ゆう)
1982年千葉県生まれ。
東京大学先端科学技術研究センター(国際安全保障構想分野)准教授。
早稲田大学社会科学部、同大学院政治学研究科修了。政治学修士。
民間企業勤務、外務省専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO RAN)客員研究員、公益財団法人未来工学研究所客員研究員を経て、現職。
専門はロシアの軍事・安全保障。
著書に『「帝国」ロシアの地政学──「勢力圏」で読むユーラシア戦略』(東京堂出版、2019年、サントリー学芸賞受賞)、『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書、2021年)、『ロシア点描』(PHP 研究所、2022年)、『ウクライナ戦争』(ちくま新書、2022年)、『オホーツク核要塞』(朝日新書、2024年)他多数。


【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。


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