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売春地帯から少女たちを救え 人身売買の実態…救出の一部始終、アジア各国から数万人の女性が毎年インドへ【報道特集】

海外
2025-12-06 06:30

インドで横行する少女たちの人身売買。アジア各国からは毎年、数万人の女性がインドに売られてきているという。売春宿から少女たちを救出し、支援に取り組む日本人女性に密着した。


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インド最古・最大の伝統的な売春宿街

高層ビルが立ち並ぶ、インド最大の商業都市・ムンバイ。世界一の人口を抱え、成長著しいインドの経済を牽引する街だ。


日々、多くの人たちが行き交い、賑わいを見せる一方、その一角では全く別の光景が広がっている。


NPO「ラリグラス・ジャパン」代表 長谷川まり子さん
「この一角が、カマティプラと呼ばれるインド最古、そして最大の伝統的な売春宿街です」
「(インドで)最低クラスの売春街と言われていて、1時間350円ぐらいの値段で相手をしてもらえる」


NPO「ラリグラス・ジャパン」の代表・長谷川まり子さんは約30年にわたり、インドの売春宿に売られた少女たちの救出や支援に取り組んできた。


2006年、長谷川さんが地元のNGOと警察と共に、売春宿の内部に踏み込んだ際の映像がある。その部屋では6人の少女が働かされていた。


インドでは18歳未満の売春は法律で禁じられているにもかかわらず、周辺のアジアの国などから売買された未成年の少女たちが強制的に売春をさせられている。


この日、長谷川さんがやって来たのはインドで少女たちの救出活動を行う団体の拠点。


調査員が内偵を続けていた売春宿について、警察の協力が得られることになり、摘発に乗り出す。


未成年の少女売春 救出へ

NGO調査員
「我々は最寄りの警察署を出発し、このルートで売春宿が入るビルに突入します」長谷川さん
「摘発にかける時間は?」
NGO調査員
「2、3分でしょう。それを超えると、売春宿の人間が我々の存在に気づき、一瞬にして、姿を消してしまうでしょうから」


救出するのは、内偵調査で確認できた未成年の少女3人だ。


――こういう普通の商店街の一角にビルがある?


長谷川まり子さん
「携帯ショップ専門店とか、家電専門店とか、そういうお店が連なってる中にビルがあって、そのビルの中に20軒ぐらい(売春宿が)入っている」


午後4時、目的地にたどり着いた救出チーム。周囲を見渡すと、売春宿への呼び込みを行う女性たちが既に路上に立ち始めていた。


ターゲットの雑居ビルを発見。警察とともに、一斉に踏み込んでいく。向かったのはビルの2階にある売春宿。そこに3人の少女がいるという。


店内に入ると、女性たちが客待ちをしていた。店の奥に進み、一つ一つ部屋を捜索する調査員。


NGOスタッフ
「少女たちは?」
調査員
「男性客しかいません」
長谷川さん
「逃げたか」


さらにビルの奥へと進み、別の部屋を調べる長谷川さんたち。捜索を続けていると、この店の責任者が近づいてきた。


警察から売春宿に情報漏れか わずか30秒の間にもぬけの殻に

長谷川さん
「あなたネパール人?」
責任者
「そうです」


長谷川さんたちに、座るよう促してくる。


売春宿の責任者
「ビールでも飲みます?」


時間稼ぎを狙っているのか、救出チームを引き留めようとしているようだ。


騒ぎを聞きつけ、ビルの通路は売春宿の関係者たちで溢れ始めていた。


NGOスタッフ
「少女たちはどこ?」
責任者
「2人ほどいたけど、どこに行ったかしら」


着手から既に10分以上が経過。救出を中断し出口へ向かっていた、その時。向かいのビルの入り口に、複数の少女が立っていた。


すぐさま現場に向かったが、姿は既にない。その間、わずか30秒。ビルの中に入ったのか。捜索に向かうと…


調査員
「逃げ道がある」
長谷川さん
「逃げてます。誰もいません。もぬけの殻です」


店の中には従業員すら残っていない。少し進むと、外へと繋がる道が見つかった。


捜索開始から20分。チームは少女たちの救出を断念した。


警察から売春宿に事前に情報が漏れ、警戒を強めていたのではないか。調査員は、そう分析する。


NGO調査員
「警察は売春宿から賄賂をもらって情報を漏らすこともあります。これがインドです」
「10回中、成功するのは2、3回程度です」


「普通の生活をしている女の子も被害に」

元々、ノンフィクションライターとしてインドの社会問題を追っていた長谷川まり子さん。駆け出しの頃に訪れた売春街で少女たちの姿を目の当たりにし、取材を始めた。


貧しさゆえに親族から売られたり、仕事のあっせんを口実にブローカーに騙されたりして、連れて来られていた。


取材を続けるうちに、長谷川さんは被害者の救済をライフワークにしたいとNPO「ラリグラス・ジャパン」を立ち上げ、30年近く日本でも支援を募ってきた。そして、今。


長谷川まり子さん
「SNSがすごく発達して、Facebookなどからコンタクトを取って、女の子たちを騙して連れ去る。貧しい女の子だけではなく、普通の高校生とか、普通の生活をしている女の子たちも被害に遭っている」


長谷川さんが長年支援し、活動を共にしてきたインドのNGO「レスキュー・ファンデーション」。設立は1993年。世界各地から支援を受け、これまで7000人以上の被害者を救出してきた。


NGO「レスキュー・ファンデーション」トリベニ・アチャルヤ代表
「被害者で最も多いのはネパール出身の少女たちですが、最近ではバングラデシュやタイ、ウズベキスタン、インド国内から連れてこられた女の子もいます」


売春宿の内偵を行うのは、20人の調査員たち。情報提供者から寄せられた少女たちのデータを基に店を割り出し、潜入調査を行う。


主任調査員 アミッシュさん
「これは、“オーケストラ”と呼ばれる売春の手口です。結婚式などで少女たちが踊りを披露し、その後、売買される事例が増えています」


結婚式やパーティで踊る、ダンサーを募集する広告。近年、こうした求人で幼い少女たちを誘い出し、売春させる手口が相次いでいるという。


主任調査員のアミッシュさんに寄せられたのは、この“オーケストラ”に参加したまま行方不明になっているという少女の情報だ。


救出チームはインド東部の街に集まった。地元の警察と40人態勢で少女の救出活動を決行する。


チームが現場に足を踏み入れると、成人のダンサー2人が舞台に残っているだけで、少女の姿は会場にはなかった。直ちに周辺の捜索に向かう。


“人身売買ルート”で年間約7000人がネパールからインドへ

警察官
「おい、出てこい」


カギを壊し、関係者が潜伏しているアジトに突入する。すると、出てきたのは15歳と16歳の少女。


警察官「誰に連れてこられたの?」
少女(16)「ファティマという女性です」
警察官「君は?」
少女(15)「私は彼女の妹です」


行方不明になっていた少女も無事発見され、この日、合わせて24人の少女が救出された。


インドに売られる少女たちの多くは、隣国・ネパールからやって来る。首都・カトマンズから、車で4時間。長谷川さんがやって来たのは、山間の国境地帯だ。


長谷川さん
「この周辺には、ネパールからインドへ越境人身売買される被害者として最も多い民族の、タマン族の集落がたくさんあるんです。ここで、山から騙して連れ去って来た女の子たちをバスに乗せて、一気にインドの国境まで連れていく」
「私たちは“人身売買ルート”と呼んでいる」


年間約7000人がネパールからインドに売られてくる。その多くが未成年だ。


インド社会に深く根付くカースト制度では、色白の肌が“高位”とされていた。そのため、肌の色が薄いネパールの少女たちが好まれるという。


被害者の保護に取り組む地元のNGOは、複雑な問題が背景にあると指摘する。


NGO「マイティ・ネパール」アヌラダ・コイララ代表
「一つは教育の欠如。さらに、ジェンダー格差の問題もあります。この国では、女性が結婚する場合、多くの持参金が必要です。ブローカーは“いい仕事がある”“2、3年も働けば、結婚するのに十分なお金を稼ぐことができる”などと、女の子や親を騙すのです」


団体に保護され、社会復帰を果たす女性たちがいる一方、再び転落してしまう人もいる。


人身売買された少女の人生 売春宿に売ったのは父親

かつて、この団体の支援を受けていた、ネパール出身のチャンヌーさんもその一人だ。


長谷川さんは、約30年前からチャンヌーさんに深く関わり続けてきた。


12歳でインドの売春宿に連れていかれ、5年間、過酷な労働を強いられてきた。救出されたとき、HIVに感染していた。


チャンヌーさん(当時27歳)
「いつまで生きられるかも分かりません。余命がどれぐらいか分からないので、将来のことは答えられません」


HIVと闘いながら、病気がちの父親に代わって家計を支えていた。普通の生活を取り戻し始めたかにも見えた矢先、長谷川さんの元に一報が届いた。


長谷川さん
「ある日、彼女が捕まってしまった。女の子を連れて、国境を渡ろうとしたところを警察に捕まって。つまり、今度は自分が人身売買犯罪に加担する側になった」
「『もう何てことしたの?』って。全然泣かない子だったのに、その時、ものすごく泣くんですよね。『ごめんなさい、ごめんなさい』って言って。抱きしめたら、すごく小さくなっていて。不健康な様子に見えたから、ちゃんとご飯食べて、元気になってね。また会おうね。そんな感じのお別れだったんですよね」


しかしその後、チャンヌーさんは失踪。数年前に亡くなったことが分かった。


さらに、チャンヌーさんを売春宿に売ったのは父親だったと、NGOの職員から聞かされたという。


長谷川さん
「本当に家族のために尽くしてたんですけど、その子が親に売られたとしたら、どれほど傷ついただろうと思うので。最後は、本当に破滅的な、自分の未来を自分で壊してしまうという最後だった。その大元にあるのは“頑張ったところで何になるのか”“一度壊された私の人生は取り戻すことができない”、というのがベースにあったのではないか。足りなかったと思うんです、ケアが」


救出された少女の社会復帰 必要なのは心の回復

長谷川さんがいま、最も力を入れているのは、人身売買の被害者たちの社会復帰だ。


インドの「レスキュー・ファンデーション」が運営する少女たちの保護施設では、教育の機会を奪われてきた少女たちに読み書きや算数などを教えているほか、美容や縫製の技術を学ぶ職業訓練を行っている。


施設では、何年にもわたって保護生活を送る女性たちもいる。


ムスカンさん(仮名)
「両親がいなかったり、家に帰りたくなかったり、事情を抱えた人たちが暮らしています」


ネパール出身のムスカンさん(仮名・29歳)。15歳の時にインドに連れてこられ、売春宿で働かされてきた。救出されたのは20歳のとき。それ以降、保護施設で集団生活を送っている。


ムスカンさん(仮名)
「私は5歳で父を亡くし、母はその後、別の男性と再婚しました。2人は私が14歳のとき、結婚相手を見つけてきました。結婚は嫌でしたが、私は学校に通うという条件で、仕方なく親の言うことに従いました」


法律で禁じられている“児童婚”を強いられた、ムスカンさん。学校に行く約束も反故にされ、家を飛び出した。


そこで、ブローカーに「いい仕事がある」と連れてこられたのが、インドの売春宿だった。


ムスカンさん
「実際は違うのに、売春宿のオーナーたちからは“18歳で自分の意思で働いていると言え”と、命令されていました」
「何度も逃げようとしましたが、すぐに警察に捕まり、店に送り返されました。警察が、売春宿から賄賂を受け取っていたのです」


救出された直後のムスカンさんは、感情のコントロールが利かず、周囲に怒りや不安をぶつけてばかりいたという。


しかし、カウンセリングを重ね、数年前から年下の少女たちの世話役を担い、ダンスを教えるリーダーとしての活動を始めたことで、次第に自信を取り戻すようになった。


かつての自分と同じ道を辿った少女たちを前に、こう語る。


ムスカンさん
「ここに来たときは毎日、泣いていました。でも今は、他の子たちが、私のようになりたいと言ってくれます。きっとなれます。誰よりも自分を誇るべきです」


30年にわたり、人身売買の被害者を支援してきた長谷川さん。深く傷ついた少女たちの社会復帰のためには、心の回復こそが必要不可欠だと実感している。


長谷川さん
「当面の目標としては、やっぱりまだ女の子たちの心の回復という部分では十分ではないと思うので、そこに力を注いでいきたい」
「やっぱり、何らかの形で、女の子たちが社会に戻っていく姿を見ると、すごく嬉しいです。騙されて売られていく子どもがいなくなるまで、やらなきゃいけないと思っています」


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