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欧州を席巻しつつある極右勢力~熱狂する支持者たちの本音に迫る~【調査情報デジタル】

海外
2025-06-28 08:00

東欧のみならず、ドイツやフランスなどでも着実に勢力を伸ばしつつある極右勢力。EUの役割に否定的で、移民流入の制限やウクライナ支援見直しが共通する主張だ。欧州各国で極右勢力が熱狂的な支持を集めるのは何故なのか。直近の動向を踏まえながら、JNNのパリ支局長が報告する。


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異例の“やり直し大統領選挙”で優勢だった極右候補がまさかの逆転負け

5月18日、東欧のルーマニアで、やり直しになっていた大統領選挙の決選投票が行われた。親EU派で首都ブカレストの市長、ニクショル・ダン氏と、トランプ大統領の「自国ファースト」を模倣する極右政党の党首、ジョージ・シミオン氏の一騎打ちとなった。


決選投票の前に行われた1回目の投票では、極右のシミオン氏が得票率41%と2番手だったダン氏の21%を大きくリードしていた。決選投票でもシミオン氏の優勢が伝えられていた。


しかし、決選投票の結果は、ダン氏が得票率54%、シミオン氏が46%と、ダン氏が逆転して勝利したのだ。


ルーマニアは人口がおよそ1900万人でEU加盟国の中では主要国とは言えないものの、今回の大統領選挙は世界的に注目を集めた。


当初、ルーマニア大統領選挙は去年11月に行われていた。その1回目の投票で得票率23%を獲得して首位に立ったのが、極右のカリン・ジョルジェスク氏だった。


ジョルジェスク氏は、支持率が当初1%にも満たない無名の存在で、地元のテレビ報道でもほとんど取り上げられない「泡沫候補」だった。そんなジョルジェスク氏がなぜ、本命視されていた当時の首相らを抑えて首位になったのか。


1回目の投票後にルーマニアの情報機関が公表した機密文書には、SNSのTikTok上で情報操作が行われたことが記され、さらに“ロシアによる介入”が示唆されていた。


具体的には、合計800万人のフォロワーを持つインフルエンサー100人以上が資金提供を受けて、TikTok上でジョルジェスク氏の宣伝を行ったという。さらに休眠状態だった2万件以上のアカウントが選挙直前に急に活発化し、ジョルジェスク氏を支持していたとも指摘された。


若者たちがこうしたTikTokの影響を受けて、ジョルジェスク氏に投票したとみられる。こうした事態を受けて、ルーマニアの憲法裁判所は「デジタル技術の不透明な利用により有権者の投票が誘導され、候補者同士の平等な競争が歪められた」として、選挙結果を無効にするという異例の判断を下したのだ。


やり直しの大統領選挙には、ジョルジェスク氏の立候補は認められず、彼を支持する人たちの受け皿となったのが、思想が近かったシミオン氏だった。


 大統領になれば「ジョルジェスク氏を首相に」と公言するも…

無効になったルーマニア大統領選で最多得票だったジョルジェスク氏は公約に「ルーマニアファーストで反EU・反NATO」を掲げていた。ウクライナ支援には「明確にノーだ」と強調し、ロシア寄りの主張を展開していた。そんなジョルジェスク氏が、やり直しの選挙ではシミオン氏の支持を表明。シミオン氏は「自国ファースト」を掲げ、「反EU・ウクライナ支援の削減」を公約に選挙戦を展開した。


さらに大統領になれば、ジョルジェスク氏を首相に任命すると公言し、右派票の取りまとめを進めた。これまでルーマニアはウクライナの隣国として、地対空ミサイルシステムの供与や、ウクライナ軍のパイロットの訓練支援など重要な役割を担ってきたが、シミオン氏が大統領になれば、こうした政策が大きく見直されることになることが危惧された。


一方、中道の首都ブカレスト市長のダン氏は「EUとの緊密な連携やウクライナ支援の継続」を公約に掲げた。主張が真っ二つに分かれる中、勝利したのはダン氏だった。これまでの政策は継続されることになった。


混乱を極めた大統領選、ルーマニア人たちは何を思う?

首都ブカレストに住み、ニュース取材のコーディネーターなども務めているミハエラ・シギナシさんに今のルーマニアの状況などについて直接話を聞いてみた。


Q:優勢と言われながら、なぜ、シミオン氏は負けたのか?
A:化けの皮がはがれたのだと思います。これまでシミオン氏はTikTokの短い動画でメッセージを発信して支持者の気持ちを掴んできました。しかしテレビの討論会では、準備不足で自信のなさを露呈していました。経済の立て直しなどルーマニアが抱える重要な問題に対しての解決策については言っていることが無茶苦茶で、「この人、大丈夫なのか」という印象が一気に広まったと思います。決選投票では、1回目の投票に行かなかった人も「これはまずい」と思って投票に行ったことが、逆転につながったんじゃないかと思います。


Q:得票率は拮抗していたが、社会の分断は起きているのか?
A:いまだに混乱しています。シミオン氏の支持者らは結果を受け入れておらず、選挙結果が操作されたなどと言っています。家庭レベルでも意見が分かれていて、家族が不仲になったと聞いたこともあります。経済は最悪で物価も上がり続けているのに、この国はどうなってしまうのかとても心配です。


Q:今後のウクライナ支援はどうなる?
A:シミオン氏は選挙戦の中で「ウクライナへの支援は一切しない」と言っていました。その主張に魅力を感じたルーマニア人は多かったと思います。ルーマニアでの生活は非常に厳しくなってきています。そんな中で「なぜウクライナを支援しないといけないのか」と感じている人はかなり多いからです。大統領になったダン氏は支援を継続すると言っていますが、どこまで世論と向き合っていけるのか、難しい状況だと思います。


混迷の東欧を象徴!ルーマニアとは逆の結果になったポーランド大統領選挙

ルーマニアと共にウクライナの隣国として、ウクライナ支援では主導的な役割も果たしているポーランド。2023年に政権交代してトゥスク氏が首相を務めている。


ポーランドでは、外交など政治の実権は首相が握っているが、大統領は法案の拒否権を持っている。トゥスク首相は、かつてEU大統領を務めた経験もあり、親EUを象徴する人物で、司法の独立や性的マイノリティの権利などについて改革を進めようとしてきたが、右派の野党出身のドゥダ大統領が再三にわたって法案に拒否権を発動するなど「ねじれ」の状況が続いてきた。


そのドゥダ大統領の任期満了に伴う大統領選挙の決選投票が6月1日に行われた。決選投票前の1回目の投票では、トゥスク首相の中道与党の候補で首都ワルシャワ市長のチャスコフスキ氏が得票率31%で首位に、右派野党が推すナブロツキ氏が得票率29%の2位で、この2人による決選投票となった。


今回の大統領選に勝利し、ねじれを解消したかったトゥスク首相だったが、決選投票の結果は1.7ポイント差の僅差で右派の野党候補ナブロツキ氏が逆転で勝利した。ナブロツキ氏は「反EU・ウクライナのNATO加盟に反対」などと主張していて、トゥスク首相の政策を妨害する恐れがあり、首相の求心力が低下するとの見方も出ている。


右派の大統領継続で混乱が続くことになったポーランド。この結果にいち早く支持を表明したのが、ハンガリーのオルバン首相だった。「素晴らしい勝利、おめでとうございます。協力できることを楽しみにしています」「Powodzenia, Panie Prezydencie! 」(ポーランド語:頑張ってください、大統領!)


支持を広げる“欧州の極右” ~熱狂する支持者たちの本音~

いま、ヨーロッパでは多くの国で極右が支持を拡大させている。その中心的な役割を担っているのが、ハンガリーのオルバン首相だ。


6月9日にフランス中部の小さな町で、ヨーロッパ12か国の極右政党の党首らが一堂に会した集会が開かれた(記事冒頭の写真)。現地を取材すると、異様な熱気に包まれていた。集まったのはフランス、ハンガリー、イタリア、ギリシャ、ベルギー、ポーランドなどの極右の党首らで、その中で唯一国家元首を務めているがオルバン首相だ。


6000人の支持者を前にこう訴えた。「ウクライナが戦争に勝つことは不可能だ。戦地での解決策はない。ウクライナは停戦して交渉すべきだ」、「ハンガリーは国境管理を厳重にしていて、移民は受け入れない」。


今回の大規模集会を呼びかけたフランスの極右政党・国民連合のマリーヌ・ルペン氏は「オルバン首相は私たちがすべきことをやっている」と称賛した上で、「無制限で無秩序な移民の受け入れは、ノー、ノー、ノーだ!」と訴えた。演説を聞いた支持者らは、一斉にフランス国旗を振り「マリーヌ、大統領!」と歓声を上げて応えた。


極右政党の多くは、これまでEUに対し移民政策とウクライナ支援の見直しを迫り、支持を広げてきた。なぜ、極右は支持されるのか。支持者らにマイクを向けると、こんな答えが返ってきた。


「治安は悪くなっていて国家が機能していない。変化が必要だと思う。右派に投票したからと言って、問題が増えるわけではない。変化、それも大きな変化が必要で、彼らはそれをもたらすことができると思う」(30代男性)


「移民流入の制限が必要だ。フランス人のことをもっと尊重しないといけない。それだけのことです」(50代男性)


「フランス人はバカではない。左派のように、振る舞う、あるいは行動を起こさない口先だけの人にはもううんざりしている。移民と治安の悪化を制限し、フランスの主権が守られることを期待する」(20代女性)


支持者の多くが口にしたのは、今の政権への批判と極右に対する漠然とした期待だった。


ヨーロッパの極右の中で、最も過激だと言われるドイツの極右政党AfD=ドイツのための選択肢。今年2月に支持者らの集会を取材した。


AfDは移民排斥や反イスラム主義を掲げ、2月に実施されたドイツ総選挙で第2党に躍進した。ナチスの過去を持つドイツでの極右の躍進は衝撃をもって伝えられた。


私たちが選挙直前に取材した集会が開催されたのはドイツ中部のチューリンゲン州。2024年の州議会選挙で戦後初めて極右が第1党になった州だ。現場では、反対派がすぐ横の広場で反対デモを行うなど、にらみ合いが続く中、集会は始まった。


AfD支持者の多くは、いわゆる「庶民層」という印象だった。ここでも、なぜ極右を支持するのか聞いてみた。


「絶対に安全になります。それにもっと年金もよくなります。労働者の税金も下がります」(中年の女性)


「AfDはどの国とも友好関係を持てます。アメリカであろうとロシアであろうと」(別の中年女性)


そして、高齢の男性にどんな政策がドイツ社会を良くするのか尋ねると「これを見ろ!」と選挙公約が書かれた紙を手渡してきた。


集会の参加者に1時間近くインタビューしても、残念ながら明確な答えは返ってこなかった。しかし、ヨーロッパでは、ウクライナ侵攻をきっかけに物価や電気代が上昇し、移民の流入も増加傾向にある中で、既存の政党や政権は対応に手をこまねいている。市民の不満は強まる一方で、「税金を下げる」、「移民の受け入れを制限する」、そんなポピュリスト的な主張が際立つ極右に期待する気持ちが芽生えるのも、どこか分かるような気もする。


鮮明化する社会の分断が今後どうなっていくのか、極右が国のかじ取りを担う時代は来るのか、今後も取材を進めていきたい。


〈執筆者略歴〉
仁熊 邦貴(にくま・くにたか)


2005年にMBS(毎日放送)に入社
大阪府警記者クラブキャップや神戸支局長を務めた後
特集デスク、ニュースデスク、JNN担当デスクなどを歴任
2024年10月からJNNパリ支局長


【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。


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情報提供元:TBS NEWS DIG Powered by JNN

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