ユーミンの名曲「コバルトアワー」の歌詞に、「夜明けの金星 消えゆく空はコバルト」とあるように淡い藍色をコバルトブルーと言います。コバルトは金属の一種で、鉱石などに含まれています。これを焼き物の釉薬として使うと青い色が出せることから、コバルトブルーと呼ばれるようになりました。このコバルトブルーに関わる世界遺産が、東洋にも西洋にもあります。
【写真で見る】「コバルトブルー」が生んだ東西の世界遺産…青の都、青い染付の磁器、王侯貴族の秘宝
“聖なる色”青い焼き物の技法 イランからウズベキスタンへ
まずはイランの世界遺産「イスファハーンのイマーム広場」。イスファハーンはかつてのイランの首都で、その中心が青いタイルで覆われたモスクや宮殿が建ち並ぶイマーム広場です。元々、コバルトを使って青い焼き物を作る技法は、この一帯で発達したものでした。
その技法が伝わって全面展開したのが、ウズベキスタンの世界遺産「サマルカンド 文化の交差路」です。サマルカンドはシルクロードの交易路に栄えた街ですが、「青の都」とも呼ばれます。
イスラム教のモスクや神学校など、世界遺産の主要な建物は青いタイルで飾られ、その鮮やかな色彩は「サマルカンドブルー」と称されました。番組「世界遺産」で超高精細の8Kカメラで撮影したところ、コバルトの釉薬を使って焼き上げたタイルは単純な青色ではなく、光の加減でさまざまな青のグラデーションや表情を見せてくれました。まさに映像美の世界で、サマルカンドはこうした高精細での撮影に向いた世界遺産です。
イスラム教では青は聖なる色とされます。さらに14世紀にこの街を都としたティムール帝国の創始者ティムールがこの色を好んだので、都市作りで青が多用されました。ちなみに街中には今でもティムールの像が立ち、英雄として壮麗な霊廟に葬られています。
青い絵付けの焼き物 大量輸出で“海のシルクロード”も誕生
コバルトブルーの技法はさらにシルクロードを東へと伝播していき、中国の磁器と出会います。そして元の時代に、白い磁器にコバルトを使って青い絵付けをした「青花」と呼ばれる焼き物が誕生しました。
中国の世界遺産「北京の故宮」は、かつて中国皇帝が暮らした宮殿です。ここには、「官窯」と呼ばれる皇帝専用の窯で焼かれた超一級品の青花が納められ、金よりも価値のある秘宝として扱われました。
磁器は陶器と違い、薄く軽くガラス質で、弾くと金属のような音がするのが特徴です。厚くて重い陶器は世界中で作られていましたが、磁器は17世紀まで中国でしか作ることの出来ない「ナゾの焼き物」だったのです。
希少価値のある磁器に青い絵が描かれた青花は、トルコのオスマン帝国やヨーロッパの王侯たちの間でも大人気となり、中国から大量に輸出されていきます。ただしシルクと比べると重くてかさばる磁器は陸路での運搬に向かないので、船を使い海路で中国からインド、アラブ、そしてヨーロッパへと運ばれていきました。こうして生まれた交易ルートが、いわゆる「海のシルクロード」です。
コバルトブルーの青花がぎっしり「北欧のヴェルサイユ」
スウェーデンの世界遺産「ドロットニングホルム宮殿」。ここは湖に浮かぶ島に築かれた離宮で、「北欧のヴェルサイユ」とも言われます。
宮殿には「磁器の間」と呼ばれる特別な部屋があり、そこには中国から輸入したコバルトブルーの青花がぎっしりと陳列されていて、いかに珍重されていたかがよく分かります。ちなみに「なんとか自前で磁器を作りたい」とヨーロッパ各国は中国磁器の研究を重ね、18世紀ついにドイツのマイセンで磁器を作り出すことに成功し、中国の磁器の独占体制は崩れました。
イランで誕生したコバルトブルーが、シルクロードで青の都を生み、さらに東の中国で青い染付の磁器を生み、それが海を越えてヨーロッパに運ばれ王侯貴族の秘宝となる…コバルトブルーが生んださまざまなものが、東西の世界遺産になっているわけです。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太
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