
人通りの少ない商店街の片隅に、新聞紙とガムテープで作られた巨大な女性像が人知れずたたずんでいます。
展示期間が終わると解体される運命にあるこの儚い作品を通して、前橋国際芸術祭の魅力に迫ります。
【写真を見る】「前橋は女の顔をしている」群馬の昭和レトロな商店街・オリオン通りの片隅に“人知れず”巨大アートが出現【前橋国際芸術祭2026】
新聞紙とガムテープで作り上げた「前橋の記憶」
群馬県前橋市で9月19日から開催されている「第一回 前橋国際芸術祭 2026」。
街全体を美術館に見立てた巡回型のイベントで、圧倒的なスケール感で話題になっているのが、昭和レトロなオリオン通り商店街の旧近藤時計店に出現した、造形作家・関口光太郎さんの作品「前橋は女の顔をしている」 です。
今回の芸術祭では、かつて街の時を刻んでいた時計店の空間そのものを作品に変えてしまいました。
関口さんは、会場となった時計店について「ネットがない時代のお店。会場に来ないと何があるか分からない、そこに人知れず謎の存在がいるかもしれないという、ロマンを掻き立てられる場所」と表現しています。
メインの女性像を正面から見ると、何かを訴えかけてくる顔が怖くも見えるし、優しくも見え、心がざわつきます。
前橋出身の関口さんは、この作品に「前橋という街の記憶」も盛り込んだそうです。
関口光太郎さん
「私は、祖母から前橋空襲のときは空が赤くなっていたことや、父母が小さい頃に養蚕の手伝いをしていたことを聞いて育ちました。女性像にはそうした歴史も含めた前橋のイメージも込めています」
作品は数年かけて少しずつ作っていったパーツを会場に持ち込み、1か月間の集中制作でまとめました。使用した新聞紙は3年ほどかけて集めたもので、ガムテープは400個に及ぶそうです。
関口光太郎さん
「今回の作品は私自身の混乱がそのまま現れちゃっているところもあるんです。会場に来た方には、女性像と向かい合っている2体の未来なんかも想像してもらえたら嬉しいですね」
旧看板に紡がれた“オリオン” 「詩の点灯」が語りかける静かな物語
関口さんの作品の隣にあるスペースには、光の空間が広がります。
現代詩人の最果タヒさんとグラフィックデザイナーの佐々木俊さんによる作品「詩の点灯」です。
かつてオリオン通りで使われていた店舗看板18基に、最果さんが“オリオン”にちなんで紡いだ詩が書かれています。
『きみが消えたら、枯れる薔薇の花になりたい。』
『きみが触れる永遠を、私の眠る場所にしたい。』
(※最果タヒさんの詩より)
不規則に“明滅”している看板の灯りに合わせて詩を読み進めると、オリオン通りが歩んできた時間も感じることができます。
関口さんの「動」のアートに対し、“詩の点灯”は「静」のアート。この2つが時計店を軸に隣り合っていることも、今回の芸術祭の見どころの1つです。
どちらの作品も効果的に“光”が使われているので、夕方以降、白く光る会場の明と暗のコントラストは関口さんの“推しポイント”だそうです。
静謐だった120メートルのアーケード街で変化し続ける“音群”
オリオン通りは、全長約120メートルの小さなアーケード街です。
現在は空き店舗が目立ちますが、その“昭和感”が注目され、映画のロケ地として活用されたこともあります。
現在、通りには不思議な音楽が鳴り響いています。
これは音楽家の渋谷慶一郎さんが手がけた“音”のアートです。渋谷さんの膨大なサウンドデータがリアルタイムに組み合わされ、同じ音楽は二度と現れないのだそうです。
無限に変化する一期一会の音群には、ただただ圧倒されます。
近くの「双子蒸留所」には芸術祭限定のクラフトジンがあり、味で感じる芸術も楽しそうです。
アートと街の個性が「めぶく」場所
前橋国際芸術祭のテーマは「めぶく。」です。
関口さんの作品も、シャッター街となってしまったオリオン通りから新しく“めぶいた”姿と言えるでしょう。しかし、芸術祭が終わると解体されてしまうのです。
関口光太郎さん
「それぞれの作品が、生のまま唐突にドンッってあるんですよ。異物感もあるんだけれど、寂れた街に突如あるっていう感覚はオリオン通りでしか得られないんじゃないかなと思います」
芸術祭には国内外から160人以上のアーティストが参加し、約20か所の会場で展示されています。
オリオン通りはその会場の1つでしかありません。
前橋国際芸術祭で出会えるのは、アートだけではなく、街が歩んできた時間といまこの瞬間にしか存在しない景色です。
実際にオリオン通りのシャッター街を歩いてみると、そこには確かに“人知れずのロマン”がありました。
【第一回 前橋国際芸術祭 2026】
2026年9月19日(土)〜12月20日(日)
会場: アーツ前橋、オリオン通り(旧近藤時計店ほか)、中心市街地各所
※有料会場9か所はパスポートチケットが必要
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