
「声の権利」を守るための新たな指針案が示されました。生成AIによる「声の無断使用」に、「エヴァンゲリオン」シリーズや「呪術廻戦」で人気キャラクターの声を務めてきた声優の緒方恵美さんは、いま危機感を募らせています。
【写真を見る】生成AIによる声優を模した声 サイトには「商用利用権が得られる」との表記が
“エヴァ”声優の声 AIで無断生成 緒方恵美さんの憤り
「はい!はい!」「今までで、一番の笑顔!」
教え子たちに檄を飛ばすのは、声優の緒方恵美さん。
「エヴァンゲリオン」シリーズの碇シンジや、大人気アニメ「呪術廻戦」の乙骨憂太など、30年以上のキャリアの中で数々の人気キャラクターを演じてきましたが、ここ数年、危機感を募らせているのが「声の無断使用」。
声優らの声を無断で学習した生成AIによって動画が作られ、それがSNS上で公開されているのです。
声優・緒方恵美さん
「多いのはキャラクターの声ですよね。キャラクターは自分の一部を注いで作り、大切にみんなと一緒に作ってきたものなので。憤りを感じる部分はもちろんあります」
あるサイトでは、アニメキャラクターそっくりの声を生成できるAIモデルが提供されています。
緒方さんが演じたキャラクターのAIモデルも。文字を打ち込むだけで、好きな言葉で喋らせることができます。
緒方さんの声を無断学習したAIボイス
「これはAIで作られた音声です」
さらにサイトには、勝手に作ったAIの音声を商業利用することも可能と書かれています。
声優らで作る団体は、「自分たちの声を無断利用している」として、サイト側に「AIモデル」を削除するよう求めています。
声優の声をAIで制作販売、経済的損失は約20億~45億円に
緒方さんも、こうしたサイトを「看過できない」といいます。
声優・緒方恵美さん
「声は自分のアイデンティティの一つなので、勝手に私が喋りたくない言葉を喋らせて、それが私の声だと言って販売されるのは、本当にどうしてなんだろうというか、辛いなと」
NPO法人の試算では、声優の声などをAIで無断生成したとみられる画像や動画が、2025年の約2か月間で延べ約4万3000件確認され、芸能人らが受ける経済的損失は、約20億から45億円に。
日本には、声を直接的に保護する法律がなく、無断生成が野放しになっているのが実態です。
声優・緒方恵美さん
「声だけではなくて、すでに日本はアニメ・漫画に関わる全ての学習素材提供国になりつつある。なぜ『コンテンツ大国』と言っている日本が、コンテンツに対するルール作りや、『こういう指針です』と『困ります』と世界に言ってくれないのだろうか」
緒方さんは、2026年5月、声優の有志とともに、生成AIによる声や顔の無断使用で、どのような場合に民事責任が認められるかを議論する法務省の検討会に参加。「無断生成を止めてほしい」と訴えました。
そして27日、検討会が公表した指針案では、声優や歌手の声は、「みだりに利用されない権利」や、財産的な価値を守る「パブリシティ権」の保護の対象になるとしたうえで、その声を無断で使ってAI動画を生成し、SNSで収益化した場合、損害賠償などの対象になり得るとされました。
スマホで作曲 漁師の期待と不安 AI安心して使うには
生成AIを駆使した表現が広まる中、ルールの整備を望んでいるのは声優たちだけではありません。
YouTube上で「KAGENAKIMONO」と名乗る男性が1年前に投稿し、これまでに52万回再生を記録した楽曲。これもまた、生成AIによって生み出された音楽です。
作り手は、沖縄県に暮らす30代の男性。本業は「マグロ漁師」です。一度漁に出れば2週間は海の上で過ごす生活ですが…
生成AIで音楽活動「KAGENAKIMONO」さん
「仕事柄、どうしてもパソコンを使うことができない状況なので、スマートフォン1台でできるというのを知って、すごく感動的で」
これまで音楽の経験は一切ありませんでしたが、AIを使えばスマホ1台で作曲が可能に。ChatGPTと「会話」して練り上げた歌詞を音声AIのアプリに入れると1分も経たずに曲ができます。
人々が抱える“生きづらさ”を表現した楽曲動画のコメント欄は、悩みを打ち明けたり、互いに共感しあう場となっています。
生成AIで音楽活動「KAGENAKIMONO」さん
「複雑だけど嬉しい。やっぱしんどい人いっぱいいるんだなと思って。そのしんどさを少しでも減らせているんだなと思う、コメントを見ると嬉しくなります」
ただ、生成AIを使って作曲を続ける日々の裏では、無断学習された誰かの”声”や”音楽”を使用しているのではないかという不安も…
生成AIで音楽活動「KAGENAKIMONO」さん
「誰かのを学習してるんだろうとは思いますね。無断(生成)は嫌だなと思います。表現できるのが増えるのはいいことではあるけど、(生成AI)サービスを出している側で(権利侵害を)規制して欲しい」
男性は、「利用者だけで権利侵害を見極めるには限界がある」として、今回の指針をきっかけに、生成AIサービスの提供者側が、利用者が安心して使える環境を整えてくれるよう望んでいます。
「声の権利保護」未来の声優のため、緒方恵美さんの訴え
「声の権利」を訴えてきた緒方さん。声優や俳優を目指す若手の育成にも力を入れています。
声優・緒方恵美さん
「具体的にもっと思い浮かべて、何で号泣するのか、何に対して、もっと細かく細かく」
レッスンで強調するのは、AIにはまねできない「腹の底から湧き上がる感情を表現すること」。
声優・緒方恵美さん
「何を訴えたいのか。何でものすごく悲しかったのか、何でものすごく怒っているのか。体で再現できないと、それは俳優ではないよ」
教え子たちは…
塾生(中学1年生)
「AIに機会を奪われるのは嫌なので、絶対声優になりたい」
塾生(中学3年生)
「AIには絶対に出せないような、心からの芝居ができるようになりたい」
緒方さんは「声優や俳優を目指す若い人たちのためにも、生成AIと声の権利をめぐってさらなる法整備が必要だ」と訴えます。
声優・緒方恵美さん
「まだ私だと判別できるところで何かを戦って止めたりとかすることができるかもしれないけれど、これ以降の声優は、生きていくことがまず難しいみたいな形になっていってしまうのではないかと危惧している」
「(生成AIが)進化することは本当に大いにいいことで、素晴らしいと思います。ただ、その使用を他の人が作ってきた色々なものを踏みにじってまで、業界のあり方に危機感を抱かせるような、それでも使っていいとなることはやっぱりおかしいなと思いますし、どこかで早く歯止めをかけてくれないと」
・「蚊の10倍」猛烈かゆみが襲う 水辺にいる“スケベ虫”に注意
・エアコン「1℃下げる」OR「風量を強にする」どっちが節電?「除湿」はいつ使う?賢いエアコンの使い方【ひるおび】
・「人生が変わった」重い後遺症も…炎天下のスポーツと熱中症、高校野球“運動中止”の暑さでも「試合を消化しないと」【報道特集】
