
2026年最初のスポーツ日本一が決まるニューイヤー駅伝 inぐんま(第70回全日本実業団対抗駅伝競走大会。群馬県庁発着の7区間100km)。前回優勝の旭化成は東京2025世界陸上10000m代表の葛西潤(25)、25年の日本選手権5000mを制した井川龍人(25)、前回1区区間賞の長嶋幸宝(21)の入社3年目トリオがチームを力強く牽引している。外国人選手を起用できないため、インターナショナル区間の4区が課題だが、10000m元日本記録保持者の相澤晃(28)、4回の優勝を経験しているベテラン大六野秀畝(33)、成長株の亀田仁一路(24)、新人の山本歩夢(23)ら、多士済々のメンバーで2連覇に、そして史上最多の27回目の優勝に挑む。
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■ニューイヤー駅伝(1月1日)の区間と距離、中継所
1区 12.3km 群馬県庁~高崎市役所
2区 21.9km 高崎市役所~伊勢崎市役所
3区 15.3km 伊勢崎市役所~三菱電機群馬工場
4区 7.6km 三菱電機群馬工場~太田市役所
5区 15.9km 太田市役所~桐生市役所
6区 11.4km 桐生市役所~伊勢崎市西久保町
7区 15.6km 伊勢崎市西久保町~群馬県庁
強烈スパートで駅伝日本一を決めた井川が駅伝でも日本一に
前回のニューイヤー駅伝はアンカー井川の強烈なラストスパートが、旭化成に26回目の勝利をもたらした。「無理のないペースで追って早い段階(4.6km付近)でHondaに追いつくことができました」。それができたのは12秒差でタスキを受け取ったからだった。井川自身は「30秒差」を予想して待っていた。「チームのみんなが持てる力を発揮した結果です」。
調子自体も良かった。12秒差を追い上げても余裕があったという。「個人レースならもっと早くスパートしたと思います。しかし駅伝はチームの勝利が一番なので、ラスト200mくらいから行こうと考えていました。結局、気持ちが先走ってしまって、ラスト500mから出てしまいましたね。思ったより残りが長かったです」。井川自身は多少のヒヤヒヤも感じながら走っていたが、2位のHondaには8秒差と危なげなく逃げ切った。
元旦のラストスパートは、25年シーズンの快進撃への号砲ともなった。7月には日本選手権5000mに初優勝し、ホクレンDistance Challenge網走大会では13分23秒13の自己新をマーク。8月にはベルギーの試合で13分14秒58で走り、日本記録(13分08秒40)に約6秒と迫った。東京2025世界陸上代表には惜しくも届かなかったが、2カ月間の結果で大きな自信を得た。
「過去にないくらい練習を頑張りました。良い質、良い量で1カ月半から2カ月、練習ができました。それを3カ月間集中してできたら、(日本人初の)12分台も見えてきます」。
そして再び、ニューイヤー駅伝に挑む季節となった。世界陸上を逃してからは一度状態を落としたこともあり、11月3日の九州実業団駅伝は1区で区間7位。区間賞選手とは16秒差でブレーキとは言えないが、苦手の上り坂もあって苦戦した。しかし11月22日の八王子ロングディスタンスでは10000mで27分52秒61と、状態は上向き始めた。
「前半区間ならタイム差を気にせず、前を追う走りをします。2年連続アンカーだったら、40秒差くらいなら追いつく気持ちで行きます。ラストスパートは負けない自信があるので、強気の走りをしたい」。1年間の成長を、どういう形で見せてくれるだろうか。
「1区なら絶対に勝てるように」と前回区間賞の長嶋
高卒入社のため年齢は4つ違うが、長嶋は葛西、井川と同じ入社3年目の選手。1年目から1区に出場したが、9km過ぎで転倒したことも響き区間13位だった。2年目の前回は11.4km付近からロングスパートを仕掛け、三浦龍司(23、SUBARU)、吉田祐也(28、GMOインターネットグループ)、遠藤日向(27、住友電工)らのビッグネームを抑え区間賞を獲得。中継後には「今まで走った中で一番嬉しい」と、喜びを表現した。
「強い選手が揃っていましたが、ここで勝ちきって区間賞を取って次の区間につなげば、チームにも刺激が入ります。絶対に区間賞を取る、という前向きな気持ちで走ることができました」。
しかしニューイヤー駅伝後は左ひざ、右ふくらはぎと相次いで故障。体調不良も重なって、復帰レースは11月3日の九州実業団駅伝までズレ込んだ。旭化成Bチームの1区で区間8位、区間賞選手とは18秒差だった。
「練習の流れを考えたらまとめられたと思います。11月末の日体大10000m(1組9位・28分16秒84)で粘りの走りができてメンバー入りしました。その後の練習も余裕をもって、かなり良い感覚でできています」。
出場区間はチームの状況次第となり予想が難しい。インターナショナル区間の4区も日本人で戦わなければいけないことが、その状況に輪をかけている。だが選手層が厚く、どの区間にも適した選手を準備できるのが旭化成である。長嶋を1年前と同じ1区に起用できる可能性は大きい。「1区なら絶対に勝てるように、臨機応変に走ります」。前回と違うレースプランも考えているという。
同期の葛西は入社2年目のパリ五輪、3年目の東京世界陸上と10000mで代表入り。井川も前述のように日本選手権5000mを制した。個人成績で長嶋は、学年が4つ違うので当たり前ではあるが同期2人に後れを取っている。前回の区間賞も個人種目に結びつけられなかった。1年目の転倒でブランクが生じ、急ピッチで駅伝に合わせたダメージも、その後の故障につながった。
「(1年目にケガをした)左ひざも良くなっていて、体も実業団のハイレベルの練習に少しずつ適応してきています。練習を継続できる体にして、来年はトラックでも結果を出します」。2年連続ニューイヤー駅伝で快走し、個人種目でも同期2人を追い上げる号砲とする。
ベテラン大六野がスピードを維持できている理由は?
入社3年目トリオがチームを牽引する存在だが、それ以外のメンバーも強い思いを持って駅伝に臨む。入社1年目に10000m日本記録を更新し、21年東京五輪代表となった相澤は、今年9月に初マラソンに挑戦した。結果は良くなかったが、「ニューイヤー駅伝と今後のマラソンに向けて、新たな自分になるために練習を大きく変えました」と、失敗を糧とした。
旭化成はトラックのエースは3区を任される傾向があり、相澤も22年は区間賞、24年は区間3位と3区で好走してきた。「今の旭化成は3区を走れそうな選手が多いので、自分は2区を考えています。上りも得意なので5区でも大丈夫です」。
6区を2年連続で走っている齋藤椋(27)は、高校を卒業して入社8年目に初めてニューイヤー駅伝を走った苦労人的な選手。区間順位は7位と4位。優勝を狙うチームの6区としては、もう少し上の区間順位が欲しい。「今回は6区でも他の区間でも、言われた区間で区間賞争いをしたい」。
2年目の亀田は関西大学出身。3年時の日本インカレ10000mで日本人1位になり、トラックの実績では関東の大学出身選手に引けを取らない。25年はスタミナ面もアップし、11月の八王子ロングディスタンスでは組1位、12月の甲佐10マイルではチーム内トップの9位を取るなど戦績が安定した。「距離への不安も甲佐で払拭できました。風や坂、距離に関係なくどの区間でも行けます。走るからにはどの区間でも区間賞を取りたい」。
新人の山本は24年の全日本大学駅伝6区(12.8km)で、区間記録を14秒更新して区間賞を獲得した選手。入社後しばらくは力を発揮できなかったが、11月29日のNITTAIDAI Challenge Games10000mでは27分51秒44の自己新をマーク。三木弘監督は「練習を見ていると、前半速く入っても後半にもうひと伸びする。伸びやかな走りをする選手です。追い風の区間ならヨットのように帆にしっかり風を受けて、グイグイ進んでいくイメージがあります。前半で使いたい選手」と高く評価している。
そしてベテランの大六野の存在が頼もしい。過去9回ニューイヤー駅伝に出場し、4回の優勝に貢献してきた。スピード区間の3区を4回、最長区間を2回、アンカーの7区を2回走り、前回は初めて5区を任された。20年以降はマラソンが中心になっているが、それでも3区や最長区間など、高いスピードが必要な区間を任されている。「スピードは練習をすれば普通に出ます」と事もなげに言う。
それを可能にしているのは、大六野が「動きの再現性」を重視し、フォームの精度を追求しているからだ。「走ることは“技術”と思っています。体重の乗せ方がどうかなど、技術を理解して走れば、どの大会でもパフォーマンスを発揮できます。日頃のジョグも含めて、練習を積み重ねれば動きの再現性が上がります」。
12月に入ってインフルエンザにかかり少し練習が中断したが、大六野の走りが崩れることは考えにくい。旭化成の初優勝は1964年の第9回大会で、60年代、70年代、80年代と4回ずつ優勝し、90年代は9回優勝と黄金期を築いた。00年代は優勝できなかったが、17年から4連勝し、前回の優勝を加え至近10大会で5回の栄冠を手にしている。エースだけでなく、チームの全選手が強い思いを持って走ってきた結果が、26回の最多優勝という形になっている。選手層の厚さと気持ちの強さが発揮されれば、旭化成はオール日本人選手でも2連覇の力がある。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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