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タイドラマが変えた日本人のタイ旅行 聖地巡礼がコロナ後の“突破口”に、向井康二出演作で新たな層も【タイ国政府観光庁インタビュー】

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2026-11-04 15:10
タイドラマが変えた日本人のタイ旅行 聖地巡礼がコロナ後の“突破口”に、向井康二出演作で新たな層も【タイ国政府観光庁インタビュー】
ワット・アルン(バンコク)=ドラマ『Dating Game』、映画『(LOVE SONG)』ほか多数ロケ地
 コロナ禍に日本で一大ブームを巻き起こしたタイBLドラマ。画面越しに作品や俳優と出会ったファンの熱量は、渡航再開後、ロケ地やイベントを目指して現地へ向かう力となった。

【写真】美しい!タイドラマロケ地となり聖地となった各地の観光地

 その旅先は、バンコクの定番観光地だけではない。大学や郊外のアパート、地方都市の市場、山間部まで、作品を入り口に日本人旅行者の訪問先は広がっている。近年はタイBLドラマにとどまらず、GL作品やタイ映画、T-POP、Snow Manの向井康二や藤井風ら日本人アーティストの活動をきっかけにタイを訪れる動きも生まれた。

 タイのエンターテインメントは、日本人のタイ旅行をどう変えたのか。タイ国政府観光庁 東京事務所のマーケティングオフィサー・桑木友子氏に聞いた。

■コロナ禍の『2gether』が生んだ熱

 日本でタイドラマへの関心が一気に高まったのは、2020年の春。新型コロナウイルスの感染拡大で外出や旅行が制限され、多くの人が先の見えない不安を抱えていた時期だった。

 その中で注目を集めたのが、Bright(ブライト)とWin(ウィン)が主演した『2gether』。SNS上の投稿をきっかけに口コミが広がり、明るく親しみやすい物語が多くの視聴者を引き付けた。

 桑木氏は「多分、タイミングだったと思うんですよね」と振り返り、「みんなが『この先どうなっちゃうんだろう、私たち』と不安を抱えていたところに、ああいう、ほんわかして気軽に見られる作品が入ってきた。日本で広く注目を集めた作品が『2gether』だったことも、タイドラマ人気に火を付けた理由と言えると思う」と語る。

 当時はYouTubeで無料視聴でき、日本のファンが字幕を付けるなど、視聴者同士で作品の魅力を共有する文化も生まれた。「みんなでYouTubeを見て、楽しい、幸せな気分になっていた。そんな感情を共有できる人同士が、自然とつながっていった感じでしょうか」。ファンがSNSで感想や情報を発信することで、関心はさらに広がっていった。

 もっとも、タイBLは2020年に突然誕生したものではない。2016年にタイで放送された『SOTUS』は、タイのBL人気の礎を築いた代表作の一つ。すでにタイ国内や一部の海外ファンから支持されていたが、日本でより広い層に届く転機となったのが『2gether』だった。

 旅行に出られない時期には、タイ国政府観光庁 東京事務所も協力した2021年の「BRIGHT WIN 1st FAN MEETING IN JAPAN」(主催:ぴあ・テレビ朝日)や、現地旅行会社によるバーチャルロケ地巡りツアーも行われた。日本にいながらタイとの接点を保ち、「いつか実際に行きたい」という気持ちを育む機会になった。

■渡航再開の“突破口”に

 海外旅行が段階的に再開しても、帰国前のPCR検査などの条件が残り、すぐに誰もが動き出したわけではない。その中で、いち早くタイへ向かったのが、タイドラマや俳優を強く支持するファンだった。「あの作品のあの場所を見たい」「推しがいる国へ行きたい」という明確な目的が、渡航を後押しした。

 桑木氏は「困難を乗り越える情熱のある人たちがタイを訪れてくださった。コロナ後の閉鎖的な雰囲気を壊してくれたのも、タイドラマファンの方々の愛の力だったのかなと思います」と振り返る。渡航再開後、同庁にも「ドラマを見てタイへ行きたくなった」「俳優に会いたい」といった問い合わせが寄せられたという。

 ブームがタイ旅行全体の急回復に直結したわけではないものの、強い動機を持つファンが最初に国境を越え、現地での体験をSNSで発信したことで、後に続く旅行者の心理的なハードルも下がっていった。

■聖地巡礼で地方都市へ

 聖地巡礼がもたらした変化の一つが、日本人旅行者の訪問先の多様化だ。従来のタイ旅行では寺院や王宮、マーケット、ビーチリゾートなどが主要な目的地だった。一方、タイドラマのファンは、大学やレストラン、カフェ、主人公が暮らしていたアパートなど、一般的な観光案内には載りにくい場所も目指す。

 大学を舞台にした作品が多い一方、大学は学生や教職員が学び、働く場所でもある。自由に利用できるカフェやショップもあるが、事前の許可や配慮が必要な場所もある。旅行会社が大学側と調整したツアーを企画するほか、ファン同士が車をチャーターし、郊外のロケ地を巡る動きも生まれた。

 地方へ人を動かした代表例が、Billkin(ビルキン)とPP主演の『I Told Sunset About You』だ。プーケット・タウンの街並みや飲食店、ビーチ、美しいサンセットを眺められる名所などが物語を彩り、撮影から年月がたっても、作品の写真や装飾を残してファンを迎える店もある。

 桑木氏は「ドラマを見ていて『行きたい』と思わせる影響力があります。あの作品はプーケット・タウンが物語のメインの舞台になっていましたので、実際に行ってみたいと思われた方もいらっしゃったのでは」と話す。

 テレビ朝日のドラマをタイでリメイクした『Ossan’s Love Thailand』では、タイ北部のランパーンでもロケを実施。2025年に東京で開催されたファンミーティングでは、劇中に登場した同地の名所が紹介された。日本で作品を楽しむイベントが、次の旅行先を知る場にもなっている。

 ほかにも北部チェンライの山間部、南部ソンクラー、東部のチョンブリーなど、タイドラマをきっかけに注目された地域は少なくない。アクセスが容易ではない場所でも、「作品に登場した風景を自分の目で見たい」という思いが旅の動機になっている。

■現地イベントを詰め込む“推し活旅行”

 ロケ地巡りと並ぶ渡航目的が、俳優のイベントやコンサートだ。タイでは、俳優やアーティストがショッピングモールなどに登場する機会が多く、日本と比べてファンとの距離が近い。

 タイ語が分からず、出演者の話をすべて理解できなくても、会場全体の熱気や幸福感を味わえる。「あの空気感と多幸感は、はかない夢のような体験になるはず」とその魅力を語る。

 ファンは一度の旅行に、メインのコンサートやファンミーティング、ロケ地巡り、芸能事務所のショップ、ショッピングモールの無料イベントなどを組み込む。「現地のイベントに行って、聖地を巡って、モールのイベントも見る。それを全部セットにすると、かなり濃い旅行になりますよね」と桑木氏。複数の目的を組み合わせることで、旅の満足度も高まる。

 その旅は空港に到着した瞬間から始まる。スワンナプーム国際空港に着いて、「推しの国に上陸した」と実感するファンも多いはず。作品の背景にある言葉や食、街の雰囲気まで体感できることが、現地を訪れる価値となっている。

■向井康二、藤井風から新たな層へ

 現在、エンターテインメントを入り口にタイへ向かう動きは、タイBLドラマファンだけのものではない。

 新たな層を動かす存在の一人が、タイにルーツを持つSnow Manの向井康二だ。タイドラマ『Dating Game~口説いてもいいですか、ボス!?~』でタイ人俳優March(マーチ)とダブル主演し、作品に登場するバーや街並みにも日本のファンから関心が寄せられた。

 森崎ウィンと向井がダブル主演した日タイ共同製作映画『(LOVE SONG)』でも、東京とバンコクを舞台に物語が展開。タイで3週間にわたる撮影が行われ、作品を通じてバンコクの風景や文化に触れる機会を生んだ。

 向井はSnow Manとしてタイの大型イベントにたびたび出演。2024年にはTBS『それSnow Manにやらせて下さい』の受賞に伴い、渡辺翔太と「バンコク日本博」の表彰式に出席した。2026年には個人でも「JAPAN EXPO THAILAND」に登壇し、日タイ関係への貢献をたたえる賞を受賞するなど、継続的にタイで活動している。

 藤井風の最新アルバムのタイトルにもなっている楽曲「Prema」のミュージックビデオは、タイ北部チェンマイで撮影された。山岳民族の村の風景や象と触れ合う施設などが登場し、公開後にはロケ地を訪ねたいという問い合わせも寄せられた。ドラマや映画だけでなく、日本人アーティストのMVやライブも、新たな旅の目的地を生み出している。

 桑木氏は「タイドラマのファンは停滞、もしくは減少している部分もありますけど、違うエンタメの界隈から新しい人が動いています。聖地巡礼というくくりでは、今はタイドラマだけではないです」と変化を語る。

■円安でも「目的のある人は行く」

 タイへの日本人旅行者は、コロナ禍前の2019年に約180万人を記録。2024年には100万人を超え、2026年は9月末時点で約77万人となっている。一方で、円安と航空券の高騰は、海外旅行をためらわせる大きな要因だ。

 それでも、推し活や聖地巡礼という明確な目的を持つ人は動く。桑木氏は「聖地巡礼をする方は、円安でも行ってくださる。強い意思と目的がある方は迷いがないです」と話す。航空会社のセールや、ホテルが比較的安くなるグリーンシーズンを利用し、現地での食費を抑えてイベントや特典に予算を振り向けるファンもいる。

 タイBLドラマのブームは、コロナ禍当時の勢いから見れば落ち着いた。しかし、コアなファンは現地イベントや聖地巡礼を続け、GL作品やタイ映画、T-POP、日本人アーティストのタイでの活動など、新たな入り口も生まれている。

 各配信プラットフォームでは、タイドラマやバラエティー番組が日本語字幕付きで配信され、タイ国政府観光庁の公式サイトやSNSでも、作品情報と併せてロケ地を紹介している。

 桑木氏は「日本のタイドラマファンの方にも楽しんでいただけそうな撮影スポットを調べる中で、改めてタイの魅力に気付かされます。何度訪れても、新しい発見と出会いがある国だと感じています」と話し、「絶対に現地へ行った方が楽しいです」と力を込めた。

 2027年には、日タイ修好140周年を迎える。ドラマや音楽、映画を通じてタイを知り、実際に現地へ足を運ぶ動きは、今後さらに多様な層へ広がりそうだ。

写真提供:タイ国政府観光庁

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