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塚本晋也監督、“戦争加害者の傷”描く新作がベネチアで関心集める「多くの若い人に観てほしい」

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2026-09-05 08:04
塚本晋也監督、“戦争加害者の傷”描く新作がベネチアで関心集める「多くの若い人に観てほしい」
第83回ベネチア国際映画祭、『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』公式記者会見に出席した(左から)ロドニー・ヒックス、塚本晋也監督、ジェフリー・ラッシュ(C)Kazuko Wakayama
 塚本晋也監督の最新作『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』が、イタリアで開催中の「第83回ベネチア国際映画祭」のコンペティション部門に正式出品され、現地時間4日にワールドプレミアが行われた。公式記者会見には塚本監督をはじめ、主演のロドニー・ヒックス、オスカー俳優のジェフリー・ラッシュらが出席した。

【動画】映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』予告編

 本作は、ベトナム戦争に従軍したアレン・ネルソン氏の証言をもとに、戦争によって加害者側にも生まれる深い傷に迫った作品。ニューヨーク、ベトナム、タイ、沖縄の4ヶ所で撮影され、ブロードウェイで活躍するヒックスがアレン役、ラッシュが精神科医ニール・ダニエルズ役、リリー・フランキーがアレンの活動を支える日本人・黒井役を演じた。

 会見には世界各国から100人を超える記者が集まった。「戦争におけるPTSDを取り上げようと思った理由」を問われた塚本監督は、『野火』(2014年)を制作していた際、アレン氏のベトナム戦争体験を描いた本と出会ったことがはじまりだったと説明した。

 戦争で起きたことを加害者側の視点から率直に語る内容に大きな衝撃を受けたといい、「映画にするのは非常に難しいと思いましたが、映画にして、なるべく多くの皆さんに観てもらうことは非常に大事なことだと思い、この映画を作りました」と語った。

 脚本を読んだときから出演を望んだというヒックスは、「これまで私たちがあまり目にしてこなかった加害者の視点から物語が描かれていたからです」と理由を説明。アフリカ系米国人の退役軍人が戦場から戻った後や、そのPTSDをここまで描いた作品は初めてだったと振り返った。

 作品については、「人間性というものが重要なテーマになっていると思います。何が正しく、何が正しくないのか。その根底にある問いを通して、私たちの日常をどのように見つめ直すことができるのか。この映画には、そうしたことを考えさせる力があると思いました」と力を込めた。

 約1週間という限られた期間で撮影に臨んだラッシュは、「50年役者をやっていますが、塚本監督から投げかけられた質問に大きな力を感じました」と回想。「カメラがまるで消えていくように感じられる環境で、撮影中は私たち2人だけでいるような感覚でした」と語った。

 塚本監督についてヒックスは「まさに格別でした。丁寧で穏やかで、親切で、禅の達人のようでした」と称賛。ジェフリーも「事前ミーティングであらゆる言語でやり取りを終えると塚本監督からは『おぉ!』という驚いたような声が聞こえてくるんです。その一声のトーンだけで、監督が何を考えているのかが伝わってきました。『ああ、あなたが探求しようとしている方向性がわかりました。撮影現場で、それを一緒にやっていきましょう』という反応を返してくれる。そんな監督とのやり取りが、とても印象に残っています」と、撮影現場で築かれた信頼関係を語った。

 現在の戦争において、ドローンなどの技術によって攻撃する側と被害者との距離が遠くなっていることにも話題が及んだ。塚本監督は、「加害者側の意識や戦争との距離感が変わってきていることは、ひとつの恐ろしい出来事だと思います。ただ、よく考えてみると、加害者側のあり方が変わっても、被害者側は、内臓が飛び散り、目が飛び出し、家族が悲しむ。昔も現代も、その悲劇性は変わりません」と指摘。「被害者がどのような思いをしているのかを想像することが、非常に大事だと思います」と訴えた。

 本作で描こうとしたのは、ベトナム戦争そのものではなく、アレン氏の人生だったという。「時代も国も越えて、どこの国の人であっても、戦争に行けば恐ろしい目に遭い、そして恐ろしいことをしてしまう。そのことを描きたかった」と作品に込めた思いを明かした。

 映画に戦争を防ぐ力があると思うかと尋ねられると、「どう思いますか?」と記者に逆質問。「(防ぐ力が)あると思います!」という返答を受け、塚本監督は「私も、それを信じてこの映画を作っています。肌で、身体で感じてもらい、少しトラウマになるくらいの体験をしてもらいたいと思っています。そうすれば、戦争に行くことになったとき、身体が拒否反応を示すのではと思う」と話した。

 続けて、「私が子どもの頃、父親や母親、祖父母は戦争について話してくれませんでしたが、戦争をリアルな映像や描写で描いた創作物がリアルで、それが私の心に小さなトラウマを生み、結果として戦争を憎むようになったのです。その小さなトラウマや、まるでその場にいるかのような臨場感を感じてもらうことは非常に大事だと思っています。それを感じてもらえれば、映画の力によって、いつか若い人たちがこの作品を観たときに“戦争の現場には行きたくない”と身体で感じてもらえるのではないかと思っています。だからこそ、なるべく多くの人にこの映画を広げていただきたい」と呼びかけた。

 会見終了後にも各国の記者に囲まれ、一つひとつの質問に丁寧に応じる塚本監督の姿が見られ、本作への関心の高さがうかがえた。

 塚本監督の作品が同映画祭のコンペティション部門に選出されるのは、『鉄男 THE BULLET MAN』(2009年)、『野火』、『斬、』(18年)に続いて4回目。金獅子賞(最高賞)をはじめとするコンペティション部門の受賞結果は、現地時間9月12日に発表される。

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