E START

E START トップページ > エンタメ > ニュース > 圧倒的ナンバーワンは「銀河の一票」~2026年4月期ドラマ座談会~【調査情報デジタル】

圧倒的ナンバーワンは「銀河の一票」~2026年4月期ドラマ座談会~【調査情報デジタル】

エンタメ
2026-07-18 09:00

 2026年4月期のドラマについて、メディア論を専門とする同志社女子大学・影山貴彦教授、ドラマに強いフリーライターの田幸和歌子氏、毎日新聞学芸部の倉田陶子芸能担当デスクの3名が熱く語る。「タイムリープもの多すぎ問題」も浮上して…。


野呂佳代に励まされた気持ちになった「銀河の一票」

影山 まずは何といっても「銀河の一票」(カンテレ)から。


倉田 今期ナンバーワンでした。周りの友人と、これだけ盛り上がった作品はこの数年なかったと思います。見た後に、感想とか自分の受けとめ方を誰かと話したくなる作品でした。


黒木華さん演じる茉莉は与党幹事長である父親の秘書を務めていたんですが、諸事情あってそこをやめ、家も出て、一人で路頭に迷うような形になったときに出会ったのが、野呂佳代さん演じるスナックのママのあかりさんです。


その茉莉があかりに「都知事になって下さい」という突拍子もないオファーをして、そこから物語が始まります。都知事選に向かって、周りを巻き込みながら、「チームあかり」ができ上がっていく。選挙をエンターテインメントとして見せる面白さもあるんですが、選挙活動そのものより、人と人がどうやって出会い、どうやって関係を深め、その結果、社会にどういう影響を与えていくかが丁寧に描かれていて、その点にすごく魅かれました。


同世代の同僚とは毎回、見た翌日に「きのうも号泣した」、「私も」みたいな話をしていました。


影山 号泣しましたか。


倉田 脚本の蛭田直美さんが書いたせりふが一つ一つ刺さるんです。慌ただしい日常を過ごしていると、社会のちょっとした違和感や、嫌な思いをしたことを深く考えずにやり過ごすのが当たり前になっているところがあります。でもそこを立ちどまって考える、あのとき私は何で傷ついたんだろう、何であれが嫌だったんだろうと。


逆に、誰かに何かしてもらってうれしかったこともある。政治の世界で生きてきた茉莉が、スナックのママという違う世界のあかりと出会って、さりげない言葉をかけてもらうだけで、あっ、私もあかりママに励まされたような気持ちになるといいますか、そういうところがあって、せりふに号泣していました。


偶然出会った2人が関係を深めていって、都知事候補としてスカウトし「じゃ、私、出ます」となるまでの過程や、実際に選挙に向けて動き出したときに、スナックの常連の方々が、実はいろいろ手に職を持っていたりする。


影山 人物造形がよかったですね。


倉田 最初は2人だけだったのが、少しずつ仲間がふえていく。ホームページがダサいと言ったら、常連客が作ってくれたり、演説のお立ち台がないと言ったら「俺、ステージを作っていたから作るよ」というおじさんがあらわれたりする。ウグイス嬢や選挙参謀みたいな形で加わる人とか、一人一人がチームに加わっていく過程がアベンジャーズみたいでかっこよかったです。語り出したら本当にとまらない感じなんですが。


あと、宮沢賢治の世界観も含め「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という彼の言葉も、大事にしたい言葉だけれど、日々を過ごしていく中で忘れがちじゃないですか。そこにちゃんと目配りして生きていきたい、といった自分の生き方を見直す機会を頂いたと思います。


二人だけでなく、たとえばあかりさんの前任のとし子ママが、認知症になって周りのことがわからなくなっている。そういった登場人物一人一人の人生にもちゃんと背景がある。その場面に出てきていなくても、とし子ママは今施設で何をやっているんだろうと、周りの人の人生にも思いをはせてしまう丁寧な描き方でした。さすが佐野亜裕美プロデューサーです。


田幸 ほとんどの人がぶっちぎりの1位で異論はないと思います。


影山 僕も早くにナンバーワンにしていました。


「きれいなことが勝つ」というメッセージ

田幸 佐野亜裕美プロデューサーと蛭田直美さんが脚本ということで放送開始前から春ドラマナンバーワン作品になるだろうとは思っていましたが、1点だけ懸念していたのは、選挙というものがここ数年、投票率を上げればいいという素朴な時代ではなくなっていることでした。現実に二馬力が行われたり、YouTube広告がガンガン流されたり、誹謗中傷動画が問題になったり、選挙そのものが変容してきている。この点をどう処理するのか、単純に投票率を上げるだけではどうにもならなくなっている選挙・政治の現実に失望することが多かったのです。


でも実際に見ると、SNSやYouTubeなど、選挙におけるテクニカルな側面もしっかりアップデートして描いていました。これは佐野プロデューサーが、非常に多くの方と実際に面談し、膨大な取材をした成果だと感じます。政治や選挙の監修者のアドバイスもあって、今の選挙のファクトが情報量たっぷりに盛り込まれていました。


一方で、今の選挙のあり方がこれだけ詰め込まれているにもかかわらず、すばらしいと思ったのは、こんなにも今の選挙の闘い方や政治が複雑になっている中でも、政治のプロの茉莉が持ち込んでくる選挙のテクニックを超える正論、「きれいなこと」が結局は勝つという展開です。


私は選挙のドキュメンタリーや映画もすごく好きなんですが、選挙について知れば知るほど、絶望しそうになること、諦めそうになることがあります。そんな中、脚本の蛭田さんに取材をしたとき、蛭田さんが「私自身、散々ひどい目に遭ってきたし、『どう考えても悪』という人とも出会ってきた。でも、それなりにいろんな地獄を経験して、5周くらい回って、ああ、やっぱり最後にはどうしようもなく愛が勝つんだ、勝ってしまうんだ、と思い知ったんです」とおっしゃって、それを信じたいなと思わせてくれる作品でした。


きれいなことが今もちゃんと通用する。いろんなことが「きれい事」と言われて冷笑される時代に「きれい事じゃない、きれいなことだよ」と言うせりふがすごく印象的でした。


影山 名ぜりふでしたね。


田幸 「迷ったときは明るいほうへ」というのも、人生のあり方で指針になる。最終回のあかりの演説で1回グッと来て、その後に、それを超えてくるすごい演説を松下洸平さんが見せてくれて、さらにグッとなったところに、スマホが灯る。まるでいま、全国各地で行われているデモのペンライトを思わせるような形で、一つ一つのライトが灯っていく。今の政治や社会の風景と重なるものだと感じました。


影山 同じ佐野プロデューサーで「エルピス」(カンテレ・2022)と「銀河の一票」を比較すると、どうでしょうか。


田幸 「エルピス」もテレビ業界や政治と報道の闇をテレビドラマが描くという、非常に意義ある素晴らしい作品でしたが、モヤモヤが残りました。現実ってそうだよね、とも思い知らされました。その意味で「銀河の一票」のほうが読後感の良さはありましたね。なぜかというと「エルピス」の頃より今の暮らしがずっと苦しくなっていて、社会全体の痛みも激しくなっているので、やはり希望を見せてくれる作品を求めているんだと思います。


悪い人が1人も出ないみたいな作品がふえていますよね。優しい社会、優しい世界と言われる作品がふえている。蛭田さんの作品もよくそう語られるのですが、蛭田さんご自身は「優しい世界」という言葉が好きではないとおっしゃっています。「『優しい世界』ではなくて『世界は優しいんだ』ということを描きたい」とおっしゃっているんです。どこか遠くにある絵空事の美しさじゃなく、私たちが生きている世界を肯定する、希望を見せてくれる優しさ、それは今回の「きれい事じゃないよ、きれいなことだよ」につながっていると思います。


影山 ただ、これはファンタジー、おとぎ話ではないわけです。最後の松下洸平のすばらしい演説。


田幸 すごかったです。


影山 あそこで憲法の話がいきなり出た。あれはひっくり返りました。あの演説をどう捉えるかは人それぞれですし、ドラマの中でも松下洸平の物言いには反対だという場面もちゃんとある。でも、忘れてはいけないのは、あれだけ踏み込んだ演説を、ドラマの中で、しかも最終回でほうり込んだという点です。それをファンタジーとみなすのは雑だという気がします。


それから、これはメディアの問題だと思いますが、最終回が終わって、多くのメディアがこの作品を絶賛し、多くの記事が踊りました。でも僕の感覚では、憲法の問題を取り上げたことに触れたメディアは少なかったです。そこがすごいキーワードなのに。


憲法に踏み込んで語っている。この作品のそういった骨太のところは忘れてはいけないと思います。


魔法使いも乗車する「ミッドナイトタクシー」

田幸 「ミッドナイトタクシー」(NHK)が不思議な味わいでした。兵藤るりさんの脚本が優れています。タクシーの中という限られた空間、時間で出会う乗客とのやりとりで、それぞれの人生が交錯していく。古川琴音さん演じる主人公のドライバーは淡々としていて、感情が表情に出ない。受け答えも淡々としている。だけど、この人と会うと、なぜか乗客はしゃべってしまったり、この夜が忘れられない時間になるといった作品です。


乗客から聞いたことによって、主人公自身も変わっていく。タクシー内の空間と、タクシーをおりてからの日常のつなぎ方も上手ですし、乗客同士がちょっとずつリンクしていく構成もおもしろい。中にはワーホリで「地球に来ている」男性まで出てくる。


影山 あれは面白かったね。


倉田 古川さんの演技がすばらしい。たたずまいとか、ちょっとした表情の変化だけで引きつけられて、俳優さんになるべくしてなった方だと思います。


タクシーの乗客の中に魔法使いが出てきたりするんですよね。私は最初、若い男性2人が魔法使いだというのは、そういう設定の劇団員とかが乗ってきたんだなと思っていたんです。


影山 思いますよね。


倉田 ところが見ていくうちに、あっ、魔法使いで通すんだ!という驚きもありつつ、でも主人公の醸し出す雰囲気と相まって、魔法使いだってタクシーに乗るよなと妙に説得されたりする。


あと、やきいもの屋台を追いかけてほしいというエピソードも、普通にありそうですけど、よくよく考えたらそんなことないんじゃないかと思ったりする。そういうのもひっくるめて、ドラマはありそうでないものを提示する。そこを楽しむという楽しみ方ですよね。


後半になって、人の役に立つというテーマが出てきました。主人公が自分は何のために仕事をしているんだろうと思う話の流れになっていく。


私も何のために仕事しているかといったら、もちろん生活のためもありますが、やはり人の役に立つことで、自己肯定感が満たされる。人の役に立つことが、自分のためにもなる。ただドライバーと乗客の交流を描いて、不思議な世界を映し出していくだけではなく、その点を問いかけて、深みが増してきているので、楽しみに見ている作品です。


影山 おしゃれですよね。音楽も映像も。さらに乗客を中心に続々と出てくるゲストも30人を数えるらしいです。


田幸 ぜいたくですね。


影山 ぜいたく極まりないというか。そんなに出ますかと。1回こっきりかなと思った人物にも様々な背景があって、二度、三度、出てきそうですし。


古川さんのおばの和久井映見さん、それから行きつけの喫茶店のマスターの竹中直人さん。実は古川さんをタクシーの世界に導いた元ドライバーですが、この2人の、主人公に対するさりげない見守り方が、大好きです。


<カルト宗教2世>と<思春期の鬱屈>

田幸 テレ東の木曜深夜の2本が面白かったです。「るなしい」と「惡の華」です。


「るなしい」は、パッと見はカルト宗教を描く作品ですが、見ていくと、自己啓発の言葉やSNSなどと地続きになっている。宗教2世、カルトの問題だけでなく、なぜ人はそういう言葉にはまっていくのか。その人が幸せならいいのではないかとうっかり思ってしまいそうなぐらい、のめり込んでいく人の心情が生々しく描かれている。


宗教ビジネスとカルト、自己啓発、SNSなど、遠い世界の話に思えて、実は自分の身の周りにゴロゴロ転がっている。私たちの生活とも地続きだなと思わせる非常に上手なつくりでした。


主人公を演じる原菜乃華さんは「あんぱん」(NHK・2025)で、無邪気で天真爛漫な三女を演じたばかりで、その印象が強かったのですが、いきなり宗教2世の神の子をうまく演じていて、ちょっと天才なのかもと思いました。


影山 そうですか。そこまで。


田幸 すごいです。説得力がすごくて、原菜乃華さん扮するるなの言葉を聞いているうちに私も「ああ、それでいいかも」と思ってしまうぐらいです。あどけなさも素朴さもある可愛い雰囲気ながら、妙な説得力と貫禄を持つ。まだまだ引き出しを持っていると思わせて今後が楽しみです。


倉田 主人公の家が、火神様という火の神様を祀っていて、彼女は神の子として育てられている。だから、浮世離れしていて学校でいじめられる。そこを窪塚愛流さん演じるクラスメイトが助けてくれて、彼に対して恋心を抱くけれども、うまくいかない。そこで一転して、彼をカルトにはめて破滅させようという流れになっていく。


その手法ですが、お金がほしくてビジネスを成功させたい彼に対して。うまくその気にさせて乗せていく。あっ、やっぱりある種の宗教は怖いという部分ですが、現実の社会でも、その人が言ってほしい言葉を言うことで、その人をコントロールしていく手法はあるのだろうと思いました。


人間は弱い部分があるので、悩んでいたり迷っているときは、欲しい言葉を言ってくれる人を信頼しがちです。でもそこで自分で考える力を奪われていくのはすごく危ない。人のことを信じ過ぎるのはよくないとつよく伝わってきました。


田幸 もう1本の「惡の華」は、映画版がよかったのですが、同じスタッフで作ったこのドラマも非常によくできていました。あのさんがメディアで絶賛されていましたが、鈴木福君がすばらしかったです。こんなにナチュラルな芝居ができるとは正直思っていませんでしたね。思春期の鬱屈した感じや自意識が生々しくて、はまり役でした。


「時すでにおスシ⁉」で50歳が主役をつとめる意味

倉田 「時すでにおスシ⁉」(TBS)も最後まで楽しく見られた作品でした。 主人公は永作博美さん。夫とは死別し、ひとり息子が就職で家を出、50代になって1人だけの第2の人生が始まります。松山ケンイチさん演じる元寿司職人は、寿司職人を育成する鮨アカデミーの講師で、彼のもとで寿司職人になるべく、いろいろ学んでいく話です。


まず、この2人の関係性ですね。講師と生徒で、年上の女性と年下の男性。露骨な恋愛シーンはないですが、微妙な距離感を保ちつつ、大人のちょっといい関係を描いている。


鮨アカデミーに通う永作さんの同級生も多種多様です。実際、今、寿司職人の学校には外国の方も勉強に来ているそうです。また、お寿司に関する知識もふえていくところも面白かったです。


サラリーマンの退職とか、子供の独立とか生活が変わるタイミングで、これからどう生きようかと考える。何か新しいことに挑戦する、何か刺激が欲しいときに、新しい世界に飛び込んでいける勇気を持つのも大事なことだと教えてくれた気がします。


影山 永作さんが50歳の役柄です。TBS火曜22時枠は、女性の生き方を問う形で人気な枠ですが、かつて「監獄のお姫さま」(TBS・2017)という作品がありました。クドカンの脚本で、小泉今日子さんが主演。この時のキョンキョンが50歳なんです。50歳をヒロインにした作品はこれ以来、2作目のはずです。


NHKの放送文化研究所は若者のテレビ離れみたいなことを言っている。テレビ各局もしょうがなく、中高年層にシフトチェンジというのかな。50歳をヒロインにすえて、テレビ離れの人にも見てほしいけれども、テレビをしっかり見ている中高年層の女性の方々に見てくださいということだと思います。


でも、話はそこで終わらず、実は私の教えている大学のゼミ生、学生たちの間で一番人気があったのはこの作品なんです。


田幸 そうなんですか。


影山 おもしろい現象ですよね。子育てが終わってしまって、生きる力がちょっとなくなってしまう。そういう50歳の女性の生き方、自分の生きがいを見つけようという姿に、女子大生たちは決して自分とは無縁のものではないと捉えているんだと思います。


つまり、若い人に見てほしいから若者向けとか恋愛ドラマとかではないんです。今は恋愛ドラマが当たらなくなっていると言われています。だから、どこに鉱脈があるのかわからないぞという好例、一例だという気がしました。


永作さんと松山さんのラブストーリーにしなかったのがよかったという評価があります。そういうところも若い人たちが共感しているように思います。そんなになんでも恋愛に結びつけるなよということですね。


「田鎖ブラザーズ」「月夜行路」「タツキ先生」

倉田 「田鎖ブラザーズ」(TBS)は過去の事件の真相についての考察も楽しめましたし、両親を殺されて、生き残って警察官になった岡田将生さんと染谷将太さんの兄弟の心情もすごく理解もできました。


影山 映像美がすばらしかったですよね。


田幸 「月夜行路-答えは名作の中に-」(日テレ)がよかったです。文学オタクのバーのママと専業主婦が文学の名作の知識で事件を解いていく作品です。1話完結なんですが、登場人物それぞれが人生を立て直すという縦軸が重なっていて、そこに文学を合わせてくる。これは今までなかったなと思います。


みんなが知っていそうで知らなかったりする名作の知識で事件を解くという形がまず面白いですし、社会問題などもほどよい温度で入っている。説教くさくなく、自然にふんわりとした押しつけ感のなさがよかったです。


影山 僕も大好きでした。シスターフッドの新しい形ですよね。波瑠さん演じるママはトランスジェンダーなんですが、その点についてもナチュラルに描いている。LGBTQの描き方が、日本のドラマも徐々に進化していると思いました。


「タツキ先生は甘すぎる」(日テレ)は、親と子の関係の難しさというか、最終的にタツキ先生の実の息子との関係の難しさをクローズアップしていました。町田啓太さんは「九条の大罪」でも活躍ですが、花が開いたというか、いい俳優さんになったという気がします。


タイムリープが多すぎる⁉

田幸 「君が死刑になる前に」(読売テレビ)は製作陣・キャストの熱量の高い意欲作でした。というのも、この作品も含めて今「タイムリープもの」があまりに作られ過ぎている「タイムリープ多過ぎ問題」がありますよね。


影山 それはあります。


田幸 そのタイムリープものには、絶対やってはいけないこととして、自分自身に会ってはいけないとか、過去を変えてはいけないから自分が未来から来ていることを言ってはいけないとか、そういう暗黙のお約束が当たり前にあったんです。


ところがこの作品はびっくりするくらいあっさりと「お約束」を破る。自分は未来から来たと簡単に言うし、まわりのみんなもあっさりそれを受け入れる。もはやタイムリープという設定が重要なのではなく、そこで描かれる人間の心理や行動原理のほうに重点が置かれていると感じました。


タイムリープというあり得ないことが普通に行われている中でも、加藤清史郎さんの地上波連ドラ初主演だったのですが、彼が演じる何ともオタク臭くて冴えない役の安定感がすごくて、彼の演技への信頼感がさらに増しました。


今期、「惡の華」の鈴木福君もよかったですし、「エラー」(ABC)の志田未来さんとか、加藤清史郎さんとか、子役として着実に技術を積んできた人たちのうまさが、いろいろなドラマを支えていました。昔は、子役は大成しないなどと言われましたが、今の20~30代、子役出身の方が身につけた力が作品に信頼感を与えているのをこのドラマでも感じました。


あとは、唐田えりかさんが、5人も殺しているのではないかという疑惑を持たれる役なんですが、最後の最後まで殺したのか殺してないのか、本当に何か恐ろしくも見える一方で、すごく無垢にも見える。存在感もあり、お芝居がいいんだなとあらためて思いました。


影山 彼女の評価は高いですよね。タイムリープつながりで「リボーン」(テレ朝)はいかがでした。


倉田 タイムリープでかつ転生ものなんですが、転生前と転生後の二役を演じた高橋一生さんが本当にすばらしかったです。IT社長と、商店街のクリーニング屋の息子ですね。


タイムリープして、IT社長が商店街の息子の体に入ったときからがすごくおもしろくて、町の人々との交流を通して、冷血漢だったIT社長が、いいお兄ちゃんになっていく。その過程が、人の内面は周囲によって変わっていくんだなと感じさせました。


なかなかめちゃくちゃだった「余命3ヶ月のサレ夫」

倉田 いい意味で、めちゃくちゃなドラマだなと思ったのは、「余命3ヶ月のサレ夫」(テレ朝)です。白洲迅さんが妻に浮気をされる夫で、がんで余命宣告を受ける。その不倫をする妻を桜井日奈子さんが演じているんですが、この妻が本当にめちゃくちゃでとんでもない。


息子がいるんですが、夫の余命を知って保険金を息子には渡さず全部自分のものにしようとする。どうぞこの女を憎んでくださいという典型的な悪女なんですが、実は彼女自身、毒親のもとで育っていたという背景がある。


最後には、悪い人が痛い目に遭うという勧善懲悪ですっきりする。ある意味、何も考えないで見られる。ネガティブな評価ではなく、本当に見てスカッとしたいというときにちょうどいい作品だったと思います。


田幸 ついつい見ちゃうという感じで楽しく見ました。桜井さんがすごく熱演で、こんなお芝居をする人なんだとちょっと発見でした。今後お芝居の役の幅が広がりそうで注目したいと思います。


「サバ缶」と「秘密のキッチン」

田幸 「サバ缶、宇宙へ行く」(フジ)は、よかったのですけれども、いかんせん描く期間が長過ぎるので、その難しさはありましたね。その生徒たちに愛着が湧いたときにはもう次の代に行っちゃうみたいな。


倉田 そうなんですよ。この子、頑張ってるなと感情移入しようとしたら、もういなくなってしまう。宇宙に行くところまでちゃんと見届けたいという気持ちにもなる作品で、最後まで見通しましたが、そこがちょっと残念でした。


影山 世代を描く分量にもっと差をつけてもよかったかもしれませんね。


「今夜、秘密のキッチンで」(テレ朝)ですが、木南晴夏さんはいい女優さんですし、高杉真宙さんもいいですよね。これは亡くなっている人とキッチンで料理をつくるのかなと思ったら、結果としては生死の境目で、やがて目を覚ます。目を覚まして現実に結ばれるのですけれど、ファンタジーで通してほしかった感じもします。


タイトルでドキッ「産まない女はダメですか?」

倉田 タイトルでドキッとして見始めたのが、「産まない女はダメですか?」(テレ東)です。私も子どもがいなくて「あっ、ダメですか」とこのタイトルにすごく目がいってしまったんです。


主人公の女性は毒親育ちで、自分は子どもを絶対に持たない、夫婦2人で生きていくんだと考えていて、夫もそれに同意して結婚生活を続けていたんです。でも、夫がこっそり避妊具に穴をあけて彼女を妊娠させてしまう。妻は、子どもを産まないと決めていたのにという葛藤にさいなまれるストーリーです。


やはり子どもを産む産まないを決めるのは女性の権利で、身体的なことで産めない女性もいらっしゃいますし、妊娠するかしないか、妊娠したときに産むか産まないかを決める女性の権利を、夫といえども軽々しく踏みにじるなという怒りが見続ける原動力だったように思います。そういう女性の権利を強く訴えた作品でした。


影山 「孤独のグルメ11」(テレ東)ですが、今回も好きで全話見るわけです。見ていたからどうだ、見ていなかったら何かについていけなくなる、というたぐいのものではない、習慣性の極みのようなドラマですが、いまだにさびつかないというすごさがあります。これは何やろな。何か新しいことをやっているわけでもないし、松重豊さんのすばらしさなのか、スタッフのチームワークのよさなのか。これからも続いてほしいドラマではあります。


「風、薫る」藤原季節の存在感

田幸 「風、薫る」(NHK)がすごく頑張っていると思います。それまでの日本になかった看護婦という職業をいかに自分たちで立ち上げていくか、その試行錯誤を非常に丁寧に描いています。


医療のシーンは、多くの映像作品で医事考証をなさっている杏林大学の冨田泰彦先生が監修されています。今の私たちが見ると、不衛生で恐ろしいような手術シーンが出てきたりします。今までのドラマで見たことがない、ネクタイをしてシャツにベストで、素手で手術する。当時は、それが本当に普通だったんだというのが見えてきます。


そもそも「社会」という言葉も日本にはなく、西洋から入ってきたもので、言葉ができたことで概念が理解されていく。そういう価値観の導入とか、その概念に対する理解、医療と文化と社会といろいろなものが新しく日本に導入されていく様子が、すごく丁寧に描かれているなと思います。


あと、朝ドラで藤原季節さんが見られるのはうれしいですね。親がいなくて、生きるために詐欺師になった役なんですが、主人公の1人と出会ってちょっとずつ変わっていくんです。出演シーンは少ないのに、彼が出てくるたびに、すごく盛り上がる。相変わらず詐欺師はしているんですが、悪い権力者からお金を取るようなところもある。うまい起用法で、いい人を起用しているなと思いながら見ています。


倉田 詐欺師なので、悪い人ではあるんですが、憎めないいいキャラクターを演じていらっしゃいますね。二人が出会って、看護学校に入るところから「頑張れ」という気持ちが生まれてきました。


同じNHKの「ムショラン三ツ星」は、刑務所での「食」を描いて興味深い作品でした。刑務所は1日の食事代が五百何十円とか決まっているとか、配膳も差があってはいけないとか、一般社会とは違うルールで運営されているのは当たり前ですが、そういったところをかいま見られるのもよかったです。


栄養士と一緒に食事を作っていた受刑者たちがどう立ち直っていくか、その更生の過程や、出所後の人生も最後で描かれていて、罪を犯してしまったけれど、しっかり償って社会に戻っていく理想的な希望に満ちた世界が描かれていました。


影山 いい作品でしたけれども、服役中の方々が妙にいい人過ぎるというか、もうちょっと何か「噛み応え」があってもいいのかなとは思いました。一方で僕がいつも許容しているところですが、ファンタジースタイルで描いているから、それでいいのかなとも思いますが。


       <この座談会は2026年7月2日に行われたものです>


<座談会参加者>
影山 貴彦(かげやま・たかひこ)
同志社女子大学メディア創造学科教授 コラムニスト。
毎日放送(MBS)プロデューサーを経て現職。
朝日放送ラジオ番組審議会委員長。
日本笑い学会理事、ギャラクシー賞テレビ部門委員。
著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」、「テレビのゆくえ」など。


田幸 和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経て、フリーランスのライターに。役者など著名人インタビューを雑誌、web媒体で行うほか、『日経XWoman ARIA』での連載ほか、テレビ関連のコラムを執筆。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『脚本家・野木亜紀子の時代』(共著/blueprint)など。


倉田 陶子(くらた・とうこ)
2005年、毎日新聞入社。千葉支局、成田支局、東京本社政治部、生活報道部を経て、大阪本社学芸部で放送・映画・音楽を担当。2023年5月から東京本社デジタル編集本部デジタル編成グループ副部長。2024年4月から学芸部芸能担当デスクを務める。


【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。


「蚊の10倍」猛烈かゆみが襲う 水辺にいる“スケベ虫”に注意
「コバエが、料理に一瞬だけ止まってしまった!」その料理、衛生的に大丈夫?専門家に聞いた
エアコン「1℃下げる」OR「風量を強にする」どっちが節電?「除湿」はいつ使う?賢いエアコンの使い方【ひるおび】


情報提供元:TBS NEWS DIG Powered by JNN

ページの先頭へ