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AIが創った曲に、人は涙を流せるのか? ”ファスト化”すすむ音楽における「一億総アーティスト時代」のリアルと展望

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2026-05-22 08:40
AIが創った曲に、人は涙を流せるのか? ”ファスト化”すすむ音楽における「一億総アーティスト時代」のリアルと展望
CEO(セオ)としてアーティスト活動も行う、日本コロムビアグループ株式会社代表取締役社長・佐藤俊介氏
 松任谷由実が“AIと人間の共生”をテーマにしたアルバムをリリースする一方で、テイラー・スウィフトがAIによる自身の声の模倣に対抗すべく「声」の商標登録を出願。ちまたでは既存の楽曲を「○○風にアレンジ」した動画が溢れるなど、いまや音楽シーンとAIは、切っても切れない複雑な局面を迎えている。生成AIを用いて誰もがアーティストになれる時代において、“音楽の価値”や“アーティストの定義”は、いったいどのように変わっていくのだろうか。先陣を切ってAI専門レーベル『NCG ENTERTAINMENT(TM)』を率い、現場の最前線で新たな仕組みを実装する日本コロムビアグループ代表・佐藤俊介氏に、「AI時代における音楽のリアル」を直撃した。

【MVカット】涙の人生ドラマ…AIで再現された「川の流れのように」

■「MV制作はめちゃくちゃ面倒」――アーティスト兼社長だからこそ辿り着いた、AI活用の最適解

 もはや音楽制作は、限られた人だけの特権ではなくなった。動画配信サービスにはAIによる著名曲カバーがひしめき、配信サービスにはAI生成された楽曲が溢れている。

 そんな現状に先駆けて、いち早くAI活用に乗り出していた国内レーベルのひとつが、日本コロムビアグループだ。2025年9月には氷川きよし、226年2月には美空ひばりをテーマとしたAIクリエイティブコンテスト『コロテック(COLOTEK)』を主催し、音楽現場におけるAIの可能性を常に模索し続けてきた。

 国内主要レコード会社において日本初の試みとなったエンターテイメントレーベル『NCG ENTERTAINMENT(TM)』の設立には、この『コロテック(COLOTEK)』の存在が大きかったのだと佐藤氏は語る。

「『コロテック(COLOTEK)』を実施し、様々なAIクリエイターと接するなかで、AIクリエイターはアーティストになれる可能性を秘めていることに気づいたんです」

 さらに、佐藤氏の個人的なアーティスト経験も契機のひとつになったと話す。

「MV制作って、めちゃくちゃめんどくさいんですよ。拘束時間も長いし、工程数もコストもかかる。『コロテック(COLOTEK)』を始めたのも、「AIでMVを作れるようにしたい」という課題意識があったからなんです。AIだけで作るアーティストがいてもいいし、人間とハイブリッドで作るアーティストがいてもいい。AIは悪だとか使わないほうがいいって、決めつけるのは違うと思うんですよね。基本的に僕は、すべての選択肢を否定しないっていう考えかたなので」

 実際にレーベルを始動させると、意外な実態が浮かび上がった。応募者の多くは40〜50代で、職業も看護師や証券会社勤務など多岐にわたっていたのだ。なかには音楽未経験ながら、すでにSpotifyで驚異的な再生数を稼ぎ出すクリエイターも存在する。AIというツールが、これまで埋もれていた「未知なる才能」を鮮やかに可視化したのである。

 現在『NCG ENTERTAINMENT(TM)』では、人間とAIによるハイブリッド運営を実施している。人間が構築した評価軸をAIに学習させ、各アーティストに最適なサポートを提供。AIによる仕組み化を徹底することで、所属人数に左右されず、一人ひとりにフォローが行き届く盤石な体制を整えている。

 さらに佐藤氏は「AIの浸透により、人の尊厳は相対的に小さくなる」と予想する。

「現状のSNSでも『たぶんAIが書いているだろうな』みたいな投稿が、すごく増えていますよね。このままいくと、どこかのタイミングで人間が作ったコンテンツ数よりもAIが作ったコンテンツ数のほうが多くなる。そうなったとき、今の僕らが“尊厳”だと思っているものは、相対的に小さくなっていくと思います。

 今までは人間が100%だったので、そういうものに価値がありましたが、最終的には、人間が作ったものなのか、AIが作ったものなのか、人間の頭では判別できない世界になると思います。すでにSNSでも、リプライで会話している相手が、人間である保証がない状況になっていますよね」

■音楽のファスト化が進むことで共通の審美眼が消える…だからこそ『人格』と『チーム』が重要に

 AIによる不可逆な変化は、時に人間の領域を侵食するような危うささえ孕んでいる。しかし、その先にある未来において、佐藤氏は「音楽はより身近なものになる」と指摘する。

「ファッションと同じ流れだと考えています。ファストファッションの登場で誰もが気軽におしゃれを楽しめるようになった。音楽も同様に、専門家だけのものから『誰でも作れて当たり前』のものに変わります。音楽自体の価値は相対的に下がり、ビジネスモデルも変えざるを得ないでしょう。

 一方でファストファッションが環境問題に繋がっているように、AIコンテンツも玉石混淆が加速していく。結果的に良いもののところに人が集まり、二極化も進んでいくと思います」

 今以上にコンテンツが雑多に増えていくとなると、“良いものを見極める耳目”がより重要になると思いきや、佐藤氏は「もう審美眼の時代じゃない」と語気を強める。

「これからの時代は、自分が気に入った音楽だけを聴くようになりますから。多様化が進み、それぞれが好きなものに傾倒していくため、もはや共通の『審美』は必要なくなるんです」

 AIはコンテンツの作り方のみならず、“価値の決まりかた”まで変えていく。

 では、そんな時代のアーティストの在り方は、どう変わっていくのだろうか――。

 楽曲制作にAIが関与するとなると、“個人”の力が強まる印象を受けがちだが、そこで佐藤氏が予見するのは「チームの時代」だ。

「AIが一般化すると、“個人“ですごいアーティストになれる気がするじゃないですか。でも新レーベルを始めてみて、実際は1人で完結できる時代ではないと実感していて。全部が出来る人って、やっぱり少ないんですよね。だからこそ得意分野を活かし、チームでアーティストを作っていく重要性を感じています」

 AIアーティストを生み出す上で避けて通れないのが、「人格」の問題。人間のアーティストであれば、当然持っている思想や性格が、AIには存在しない。しかし、どれほど技術が進んでも、人は「誰が歌っているのか」「どういう経験の人が作った作品なのか」といった前後の“背景”や“ストーリー”に惹かれてしまう。昨今のオーディション番組にも象徴されるように、各個人の“ストーリー”は「応援したい」と思ってもらうために欠かせないセンテンスのひとつとなっている。

 佐藤氏は、人間が必然的に持つ人格や思想を付加し、ある種“命を吹き込む”作業こそが、AIアーティストの育成には、必要不可欠だと説く。

 また、「IPとして、声が新たなマーケットになる」とも言及する。

「ボーカロイドのようなものだけでなく、普通に話す声も増えていくと思います。今や本物と変わらない声が再現できてしまうし、人間が耳でしか判断できない分、拡張性も大きい気がしていますね。

 人の声をAIによって拡張することは、効率化の面だけでなくイノベーションの観点でも非常に価値があると思います。僕の定義では、イノベーションとは『できなかったことができるようになること』ですから、AI技術を使って、これまでは不可能だった新しい表現や体験を生み出すことに、大きな意味があると考えています」

 しかし、テイラー・スウィフトの件が象徴するように、声の再現はAIの強みである反面、倫理観が試される領域でもある。

 そのため同社では、「声は再現するが、人物は再現しない」という指針を採用。美空ひばり本人、そして人々の記憶に生きる彼女の尊厳に配慮を示している。

■「AI時代に必要なのは『哲学と倫理』」 音楽がインフラ化する世界で、”自然”な感性を信じる

 もはや社会に広く浸透した、AI生成。音楽のみならず、画像や文章、動画に至るまで、「AIで何かを作ること」は民主化しており、一企業の判断では流れを止められないのが現状だ。

 目まぐるしく移り変わる最適解に合わせ、ルールやガイドラインを更新しながら最善策を探る。そうして規制と緩和を繰り返すなかで、ルールは次第に定まっていくのだと佐藤氏は述べる。さらには「これからの時代、人間にとって必要なのは倫理や哲学を学ぶこと」と付け加えた。

 どの範囲までAIを使っていいのか、どう“問い”を投げかければいいのか。これまでの教育では疎かにされてきた分野が最も必要とされる時代へ、すでに私たちは足を踏み入れている。

 AIによるディープフェイクやパロディは、その最たる例だろう。大好きなアーティストとのツーショットや人気キャラクター同士の共演映像など、人々の「見たい」という欲望は止められない。一般ユーザーの倫理観と、IP保持者の権利。その折り合いをどこでつけるのかは、AI時代が突きつけた大きな課題となっている。

 一方で、すでに『NCG ENTERTAINMENT(TM)』では、プロンプトのチェックや権利侵害の確認といった実務もすでに始まっている。類似度を検出するシステム『Stop Fake』の開発(一般公開予定)も進んでいる。

 最後に、AIと人間の創作が共存するために必要なことを佐藤氏に聞いてみた。

「やっぱり哲学と倫理の有無だと思います。それらを持つ人のほうがユニークなものが作れるし、逆に倫理観のないものは長続きしないんじゃないか。一時のバズを狙って作られたものは、掛け捨てで消費されて終わってしまうので。

 私は、自然なことが『正しい哲学』であり、不自然なことが『正しくない哲学』だと考えています。子どもを育むのは自然ですが、人が人を殺めるのは不自然。大地震や洪水は脅威ですが、それを『醜い』と判断する人はいないでしょう。本質的な倫理や哲学は、自然の中にあります。だから、マーケティングに左右されず、本心から『いいな』と思ったものを選ぶ。それもまた、すごく自然なことなんです」

 音楽制作が日常になる“一億総アーティスト時代”は、すぐそこまで迫っている。誰もが表現者になれる社会で、従来の“アーティスト”という定義は消滅し、音楽はインフラ化していくだろうと佐藤氏は語った。

 AIと人間がお互いを活かしあう術を、諦めずに探求していきたいものだ。

(取材・文/坂井彩花)


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