病院の呼び出しが「頭の中ではっきり聞こえる」!? 次世代音声技術「Auracast」が変える未来
2026-10-19 10:31:30

病院の待合室で、自分の受付番号が呼ばれたことに気づかなかった。駅のアナウンスが周囲の騒音にかき消され、何を言っているのかわからなかった。そんな経験はないだろうか。
こうした音声情報の聞き取りづらさを解消する技術として、注目されているのが「Auracast(オーラキャスト)」だ。
10月16日、東京・両国で開催された「第71回日本聴覚医学会総会・学術講演会」では、補聴器メーカーのGNヒアリングジャパンが共催するランチョンセミナーを実施。医療現場やスタジアムでの実証実験を交えながら、誰もが必要な音声情報を受け取れる社会の実現に向けた可能性が語られた。
周囲が騒がしくても聞きたい音が届く「Auracast」とは?

セミナーの前半に登壇したのは、国立病院機構東京医療センター耳鼻咽喉科科長の南修司郎氏だ。
病院では医療従事者がマスクを着用し、待合室にはさまざまな音が響く。聞こえにくさを抱える人にとって、必要な情報を受け取ることさえ難しい場面があるという。
そこで期待されているのが、次世代Bluetooth音声技術「Auracast」だ。

従来のBluetoothがスマートフォンとイヤホンなどを主に1対1で接続するのに対し、Auracastは1つの送信機から複数の対応機器に同時に音声を配信できる。
利用者はWi-Fiのネットワークを選ぶような感覚で、聞きたい音声を選択。対応する補聴器だけでなく、イヤホンやヘッドホンなどでも受信できる。
例えば映画館では、同じ映像を見ながら日本語や英語、中国語など、自分の聞きたい言語の音声を選ぶといった使い方が考えられる。
世界初のAuracast対応補聴器を開発した「リサウンド」

こうしたAuracastの普及をいち早く後押ししてきたのが、デンマークに本社を置くGNグループの補聴器ブランド「リサウンド」だ。
南氏によると、同ブランドは2023年、世界初のAuracast対応補聴器「ReSound Nexia(リサウンド・ネクシア)」を発表。その後も対応するマイクやテレビ用ストリーマーなど、関連機器の開発を進めてきた。
2025年にAuracast対応の「ReSound Vivia(リサウンド・ビビア)」を発売。

Auracast対応製品では、施設から配信される音声を直接受信できる点が大きな特徴だ。
病院の呼び出しや講演会の音声などを、周囲の騒音に左右されにくい形で受け取れる。補聴器が単に音を聞き取りやすくするだけでなく、必要な情報を受け取るためのツールへと進化しつつある。
病院の呼び出しが「頭の中ではっきり聞こえる」

実際の医療現場でも、Auracastの活用が進み始めている。
東京医療センターでは、耳鼻咽喉科の外来で流れる呼び出し音声をAuracastで配信する実証実験を実施した。
「315番の方、2番の診察室にお入りください」
通常は待合室のスピーカーから流れるこうした案内を、対応する補聴器やイヤホンなどに直接届ける仕組みだ。

実証実験では、診察の呼び出しや会計案内などについて、従来のスピーカーとAuracastによる聞こえやすさを比較。5段階評価で、Auracastを使用した場合に聞こえやすさが概ね向上したという。
後半に登壇した東京工科大学メディア学部の吉岡英樹氏は、実験参加者から「頭の中ではっきりと聞こえる」という感想が寄せられたことを紹介した。
南氏は今後の用途として、災害時の館内放送や多言語による案内、待合室のテレビ音声なども挙げた。
講演中に緊急地震速報! 災害時の情報伝達にも期待

この日のセミナーでは、吉岡氏の講演が始まる直前、会場に緊急地震速報が流れる場面もあった。
「こういった場面でもAuracastは役に立つかもしれないですね」
南氏がそう口にすると、会場は改めて音声情報を確実に届けることの重要性を考える場となった。

吉岡氏は、米国のバークリー音楽院でデジタル音響などを学び、音楽制作に携わってきた人物。次女の難聴が判明したことをきっかけに、音声情報のアクセシビリティ向上に取り組むようになった。
娘は5歳で人工内耳の手術を受け、現在は中学校に通っている。しかし、人工内耳を使用していても、駅や空港、スタジアムなどではアナウンスがほとんど聞き取れないという。
こうした課題を解決しようと、吉岡氏は2025年に「Voice for All」というプロジェクトを立ち上げ、実証実験を進めてきた。
国立競技場でも実証実験! サッカー観戦の楽しみ方が変わる?

今年9月には国立競技場で、場内放送とサッカーの実況中継という2種類の音声をAuracastで配信。観客が聞きたい音声を選べる環境を整えた。
例えば、目の前でサッカーを観戦しながら、イヤホンで実況を聞くことができる。視覚障害のある人にとっては、試合の状況を把握するための音声ガイドとしての活用も期待される。

一方、観客が増えると電波が届きにくくなる場所が発生するなど、課題も明らかになった。吉岡氏は、建物の設計段階から補聴支援を考慮する重要性を訴えた。
また、実験に参加した聴覚過敏のある中学生が、ヘッドホンで音声を受信し、「楽しかったです」と笑顔を見せたエピソードも紹介。吉岡氏は、その笑顔が今でも忘れられないと語った。
「聞こえ」の壁をなくす技術へ。Auracastが広げる可能性

Auracastは、音声を直接届けるだけでなく、受信した音声を字幕に変換することも可能だ。過去の実証実験では、字幕をARグラスに表示する取り組みも行われており、情報を受け取る方法はさらに広がろうとしている。
一方、普及には対応機器の拡充や施設側の設備整備など、乗り越えるべき課題も残る。吉岡氏は、聴覚障害者のためだけではなく、誰もが便利に利用できる仕組みとして広めることが重要だと指摘した。
病院の呼び出しからスポーツ観戦、災害時の情報伝達まで。GNヒアリングジャパンをはじめとする企業や研究者の取り組みが進むことで、必要な音声情報を誰もが受け取れる社会に近づいていくのかもしれない。
GNヒアリングジャパン公式サイト:https://www.resound.com/ja-jp/
Auracast特設ページ:https://www.bluetooth.com/ja-jp/auracast/
情報提供元: マガジンサミット