E START

E START トップページ > マガジン > 今すぐ知りたい「トリプルデミック」の症状と予防策

今すぐ知りたい「トリプルデミック」の症状と予防策

2024-12-30 12:00:45

12月から急に寒さが厳しくなってきました。寒くて乾燥した季節になると、さまざまな上気道から下気道の感染症が流行します。2024年~2025年の冬は「インフルエンザ」「新型コロナウイルス」「マイコプラズマ肺炎」の3つが同時に流行する可能性が高く、この3つの感染症が同時流行する「トリプルデミック」と呼ばれる状況が懸念されています。

今回は、それぞれの感染症の特徴や予防策について、医療法人社団博雅会草ヶ谷医院院長・草ヶ谷英樹さまに話を伺いました。

感染症が広がる背景とは

感染症が流行する背景にはいくつかの要因があります。例えば新型コロナウイルスの流行期間中、厳しい感染対策によってインフルエンザの流行が抑えられていました。そのため人々の間でインフルエンザに対する免疫が低下し、再び流行しやすくなったことも一因と考えられています。また特にコロナウイルスワクチンについては、その接種率の大きな低下も起こっています。

さらに海外との人の移動が活発化したことも感染症が広がる一因です。例えば南半球では6〜8月にインフルエンザが流行しますが、そのウイルスが日本に持ち込まれることで、国内での流行が加速します。

感染症の特徴とは

インフルエンザについて

インフルエンザは毎年冬に流行する代表的な感染症です。2020年からしばらく、新型コロナウイルス感染症の大流行によって影を潜めていましたが、2023年〜2024年の冬には流行がみられました。2024年はすでに少しずつ発生数が増えていて、昨年ほどではないですが、例年よりも早い時期から流行が始まりつつあります。特に熱が出にくい「隠れインフルエンザ」の存在にも注意が必要です。隠れインフルエンザでは、熱が出ない、あるいは微熱程度なのに、倦怠感や関節の痛み,咳、のどの痛みなどの症状が現れることがあります。この症状を見逃すと感染が広がるリスクがあるため早めの診察が重要です。基本再生産数という言葉を覚えていますか?集団にいる全ての人が感染症にかかる可能性をもった状態で、一人の感染者が何人に感染しうるのか、感染力の強さを表した数字です。数が多い方が、感染力が強いということになります。この基本再生産数は2-3程度といわれています。

新型コロナウイルスについて

最近の傾向をみると、新型コロナウイルスは1年に2回ほど流行のピークを迎えます。冬場は特に感染者数が増加する傾向があります。この冬はまだ立ち上がりつつある状態ですが、去年と同じ傾向が続けば、これから年末年始にかけて増えていることを想定しておく必要があります。症状がインフルエンザと似ていて、区別が難しいことが特徴です。また感染力が非常に強い点も新型コロナの大きな特徴です。基本再生産数もインフルエンザと同等か、それよりやや上回る程度です。

マイコプラズマ肺炎について

マイコプラズマ肺炎は、一般的には上記の二つとは異なり、喉のあたりの上気道ではなく、のどよりもっと下の下気道で悪さをする感染症です。気管支炎や肺炎を起こす細菌のため、「頑固な咳」が特徴的といわれます。発症当初はインフルエンザと似たような発熱だったあとに、非常に強い咳で眠れない、吐き戻してしまうほどの咳で困るといった患者さんもお見えになります。特に今年は過去最多の患者数が記録されており感染が広がりやすい状況にあります。

私の大先輩の呼吸器内科クリニックの先生は、過去20年でこれほどマイコプラズマ肺炎をみたことはないとおっしゃっていました。軽い気管支炎で済む場合もありますが、高熱が1週間つづき立派な肺炎になっているケースや、ひどいときには髄膜炎になってしまうことも知られています。

感染経路と予防策について

これら3つの感染症はいずれも飛沫感染で広がります。飛沫感染とは話したり、咳やくしゃみをしたときに飛び散る唾液や鼻水に含まれる病原体が人から人へ感染することを指します。基本的な予防策は以下の通りです。

・手洗い
手には多くの病原体が付着するため、石けんでしっかりと手を洗うことが大切です。

・マスクの着用
特に人混みに出かけるときや咳やくしゃみが出る場合はマスクを着用しましょう。これにより周囲への感染リスクを下げることができます。特に咳症状が強いときは、周囲へのマナーとして、ぜひマスク着用をお願いします。

・加湿
冬は湿度が下がり、乾燥した環境が病原体の拡散を助けます。また上気道や気管支の粘膜のバリアも、乾燥しすぎると能力が低下します。加湿器を使って室内の湿度を50〜60%程度に保つと、感染リスクを減らせます。

・換気
定期的に窓を開けて空気を入れ替えましょう。室内にウイルスがたまりにくくなります。

症状が出たらどうする?

インフルエンザと新型コロナは症状が似ているため、自己判断で対処するのは難しいです。発熱や咳などの症状が出たら、抗原検査をすることで診断できることがあります。ただし若くて基礎疾患の無い方は、解熱剤を内服して休んでいるだけでよくなることも多い病気です。症状に余裕があれば、2-3日様子をみて、解熱しないなら病院に相談するのが良いでしょう。もちろん辛い症状が強くみられている場合には早めに病院を受診してくださいね。

現在多くの病院では、インフルエンザと新型コロナを同時に検査できるキットが使用されています。これは鼻の奥を綿棒でこすり取る方法で行われ、10~15分程度で結果が出ます。また咳がひどい場合にはマイコプラズマ肺炎の検査も行われることがありますが、上述のとおりそもそもマイコプラズマは下気道の病気のため、特に強く疑わない場合には鼻の検査を行う検査の優先度は下がります。

ワクチン接種の重要性

インフルエンザと新型コロナにはワクチンがあり、これが重症化を防ぐ効果があります。特に今年からは、子ども向けに鼻に噴霧するタイプのインフルエンザワクチンが使えるようになりました。注射が苦手な子どもには便利な選択肢です。マイコプラズマ肺炎にはワクチンがないため、感染予防には日常的な対策が欠かせません。現在は流行期のため、とくに注意が必要な感染症といえます。手洗いやマスクの着用を徹底しましょう。

薬不足の現状

現在医療現場では一部の薬が不足しています。特に咳止めやのどの痛みに使う薬が非常に手に入りにくい状況です。これは感染症そのものの流行よりも、ジェネリック医薬品の生産や供給の問題による影響が大きいとされています。ただしインフルエンザや新型コロナの治療薬には大きな供給問題はないため、これらの感染症が診断された場合には適切な治療を受けることができます。一方でマイコプラズマ肺炎に対する抗菌薬が、時期によって一時的に不足することは、静岡市でも起きています。一刻も早い解決が望まれます。

まとめ

この冬の「トリプルデミック」には注意が必要ですが、基本的な感染対策をしっかり行えば予防することができます。以下のポイントを心がけましょう。

・流行期には手洗いやマスクの着用を徹底する。

・室内の湿度を保ち換気を行う。

・ワクチン接種を検討する。特に高齢者や基礎疾患がある人は重症化リスクを減らすために重要です。

・高齢者や基礎疾患がある方は、症状が出た場合は早めに受診し適切な検査と治療を受ける。

寒い季節も健康で過ごすためには一人ひとりの注意が大切です。自分自身と周囲の人々の健康を守るため、日常的な感染対策を続けていきましょう。

医療法人社団博雅会 草ヶ谷医院
院長 草ヶ谷英樹
https://kusagaya-clinic.com/

情報提供元: マガジンサミット

人気記事