「手術後の生活」も幸せにするために、白内障手術の現状を変えてゆく
2023-12-05 12:00:00
白内障の手術件数は、国内において年々増加している。しかし、手術後にどんな見え方をするのか?焦点の合う距離を自分の生活に合わせて選べるのかといったことは一般的にあまり知られていない。南大阪アイクリニックの渡邊敬三院長は2016年に開業後、白内障手術を受けた患者のうちあまり喜んでいない人がいるのを見て、自らのやり方を顧みて反省するとともに、「日本の白内障手術のあり方を変えよう」と動き始めた。白内障手術の現状と、今行っている取り組みについて渡邊院長に聞いた。
目指すのは、患者の生活スタイルに合わせた白内障手術
私が目指しているのは、「患者様の生活スタイルに合わせた白内障手術」です。最新の白内障手術というのは、従来型の単焦点眼内レンズに加え、乱視補正レンズ、多焦点レンズ、焦点深度拡張型レンズなど様々な機能を持ったレンズが使用可能な状況にあり、「どこにピントを合わせるか」「どのレンズを使うか」などを、生活スタイルに合わせて“ご自身で”選ぶことができるものです。にもかかわらず、例えば近眼の人なら、「手術後もちょっと軽い近眼にしておきましょうね。その方が手術前と変化が少ないので」と医師から言われ、患者様は言われるがまま手術をするのが一般的です。
しかし、実際は「テレビが見られればいい」という人や「読書をしたりパソコンを使ったりしたい」という人など、望む生活スタイルは人それぞれです。そこで当院では、まず患者様が生活の中で何をどれくらいの距離で見ているのか、細かくアンケートをとっています。手術前にもカウンセリングの時間を十分にとり、「手術後はどんな生活を送りたいか」を聞き、それに対して「どのような手術が適切か」をご提案したうえで手術を行っています。その作業はとても時間がかかることですが、白内障手術を行う上で最も重要なパートです。
手術前にヒアリングをして患者様の要望を聞くなんて「当たり前のこと」だと思われるかもしれませんが、残念なことに当院のようなことをしている医療機関は世の中にほとんどありません。患者様は怖い思いをして手術をされ、手術後も20年、30年とその目で生活をされるわけですから、細かなヒアリングはとても大事です。そこは私の譲れないこだわりです。
白内障手術の「成功」とは何なのかを明確にすることが重要
今の日本の白内障手術について、私が一番の問題だと思っているのは、白内障手術の「成功」が何なのかわかりにくいということです。例えばがんなら、「5年後生存率」のような数値で見えるデータがありますが、白内障の手術に関しては「いい病院ランキング」で目にする手術件数くらいです。しかし、「手術件数が多い」=「手術の成功」なのかといえば、そうではありません。つまり、患者様にとって「白内障手術の成功率が高い病院なのか」を測る物差しが明確ではないのです。
実は白内障手術では、「2メートル先にピントを合わせる」など、手術前に予定していた通りの結果になるのは、一般的に7割程度です。つまり、10人のうち3人は思った通りの見え方にはならないということです。さらに、十分なヒアリングもなしに医師だけの判断で手術が行われたとしたら、患者様にとっての「成功率」はもっと低いことになりますよね。白内障手術を受ける人が増えたことは良いことなのですが、このような現状をほとんどの人は知りません。
この「成功率」を限りなく100%に近づけていくことが必要で、スピードや件数を競うものではありません。患者様にとっての「成功」を目指すために、手術前の検査や手術そのものの技術の精度を上げなければいけません。そのためには、最新の設備も必要です。日本で年間100万件もの白内障手術が行われている中、当院でできる手術は多くても年間1000件程度ですから、この考えに賛同してくれる医師がもっと必要なのです。
「日本の白内障手術のあり方を変えてゆく」ことが使命
患者様が知識を得て、医師に疑問をぶつけたり、自身の要望を話したりできるようになれば、医師も変わっていかざるを得ないのではと思います。そこで、YouTube「白内障ラボチャンネル」を開設しました。このチャンネルでは私自身が出演し、白内障に関する知識を発信しています。それだけでなく、「白内障LAB」というWEBメディアを監修し、白内障について理解していただけるような情報を数多く掲載しています。今は自身の手術の精度を上げるよう努めながら、発信を続ける日々です。
私の父は町の産婦人科医で、子どもの頃父と歩いていると、お母さんたちに「先生、その節はお世話になりました」と笑顔で声をかけられることが多々ありました。私も産婦人科医を目指して医学部に入ったのですが、私のキャラクターは産婦人科に向かない気がしてやめました(笑)。その後、いろんな科で実習を受けていた時、眼科で白内障手術を受けた患者様が笑顔になっているのを見て、眼科に進むことを決意しました。眼科医になった今も、手術後の患者様が喜んでくださっている姿がやりがいになっています。
また、「これまでの日本の白内障手術のあり方を変えてゆく」という目標と使命ができたので、眼科医になってよかったと思っています。今後は私の経験をもとに、これから開業する医師や、すでに意識は変わっているけれど結果がうまく出せていない医師をサポートすることにも力を入れていきます。
南大阪アイクリニック 院長 渡邊 敬三 (わたなべ・けいぞう)氏
近畿大学医学部を卒業後、同眼科学教室に入局し、府中病院(和泉市)にて勤務。オーストラリア・シドニーでの研究留学などを経て、帰国後は同大学病院眼科にて医学部講師として、白内障外来および角膜・ドライアイ外来を担当する。前身の平木眼科を2016年に継承ののち、2018年に南大阪アイクリニックに名称を変更。最新の技術や医療機器を導入し診療に従事。海外ボランティア活動のほか、白内障や白内障手術の正しい情報を発信するオウンドメディア「白内障LAB」の監修も行っている。
南大阪アイクリニック HP
http://www.shoyokai.or.jp/
情報提供元: マガジンサミット