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発症の確率は100人に1人… 統合失調症を詳しく知ろう

2018-09-09 18:30:07


執筆:藤尾 薫子(保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ
統合失調症はおよそ100人に1人弱がかかる、とても身近な病気です。
人口の約1%と言われる有病率からすると、日本には100万人程度の患者がいると考えられますが、医療機関で統合失調症関連と診断された患者数は、2014年に約77万人という推計が出ています(厚労省「患者調査」)。
この差異は、発症しているのに治療をしていない人や周囲の目を気にして病気を隠している人(潜在患者)の数が影響していると想像できます。
喘息と同じくらい患者がいる、決して珍しくない統合失調症。
あらためて、どういった病気なのかご詳しくご説明しましょう。

統合失調症の経過


統合失調症は、次の4つの段階で経過します。

前駆期(前兆期)


 発症の前触れのような症状がみられる時期
 不眠・食欲不振・緊張・焦り、意欲や集中力の低下・抑うつ状態・昼夜逆転・引きこもりなどが前兆症状です。
 ただし、これらの症状は他の病気にも見られるので、統合失調症と見極めるのは難しいです。

急性期


 妄想・幻覚・興奮・昏迷・支離滅裂な会話・奇異な行動など「陽性症状」が1~2か月続きます。
 病識(病気であることの自覚)はありません。

休息期(消耗期)


 急性期の反動のように元気がなくなり、無気力・倦怠感・抑うつといった「陰性症状」が数か月続きます。
 気力や体力が消耗し、脳の活動性も低くなります。
 1日中眠っている、ボーっとしている、といったこともあります。
 しかし、現実感が少しずつ戻ってくる時期でもあります。

回復期(安定期)


 ゆっくりと安定感が戻ってくる時期。
 ただし、陰性症状や認知機能(記憶力・判断力・注意力・実行力など)に障害が現れやすいことも指摘されています。
 それでも、この時期になると社会復帰を目指してリハビリや社会活動などに参画できるようになります。
 通常、数か月~数年単位で、発症前の状態まで回復可能と言いますが、回復後に再発したり、陰性症状や認知機能障害が慢性化したりする場合もあります。

統合失調症発症の要因


統合失調症の発症率は、10代後半から30歳代の若年層で最も高いという特徴があります。
発症のピークは、進学・就職・結婚・出産といった重要なライフイベントの時期と重なるのです。
やはり、ストレスが発症に影響するという現れなのかもしれません。
従来、統合失調症は地域に関係なく1%ほどの発症率を示していたので、遺伝性や体質などが要因とされてきました。
しかし、最近ではこの素因(統合失調症になりやすい)に加え、ストレスや人間関係などの外的要因も絡んでいると考えられています。
統合失調症発症の要因として、最近注目されているのは「脳内物質の変調」の影響です。
「脳」には無数の神経細胞のネットワークが構築され、情報伝達が行われています。
神経細胞同士が「シナプス」と呼ばれるすき間(間隙=連結部)をはさんで情報伝達をしていることがわかってきました。
シナプスで情報を伝達するのが「神経伝達物質」と呼ばれる「脳内ホルモン」で、うつ病で知られるようになったセロトニンをはじめ、グルタミン酸やアセチルコリン、GABA(ギャバ)などが挙げられます。
なかでも「ドーパミン」は統合失調症に深く関与することが指摘されています。
ドーパミンは、感情・意欲・注意・認知・運動などに作用し、興奮や緊張をもたらす物質です。
これが過剰に放出され異常な興奮や緊張、注意力や集中力の低下、あるいは妄想や幻覚を誘発していることが解明されつつあります。

精神分裂病から統合失調症へ


2002年、国際精神医学会において「統合失調症」という病名に正式に変更されました。
それまでは「精神分裂病」と呼ばれ、「人格崩壊」「怖い」「不気味」「一生治らない」などの誤解や偏見から、人格を否定するようなイメージがついて回っていました。
新しい病名は、「精神活動が一時的に変調している状態」を意図して名づけられています。
統合失調症は、早期の適切な治療によって症状の軽減や回復が果たせます。
また、薬物療法や精神療法、社会復帰のためのリハビリテーションプログラムも進歩し、現在では受け入れる周囲の側も理解を深め、協力者・支援者も増えてきています。

もっと患者への理解を深めよう!


統合失調症は、かつてと比べ社会全体の問題として捉える向きに進んではいるものの、よりいっそう深い理解が必要です。
専門医は次のような正しい見解が広がることを期待しています。
*適切な治療によって、その人らしさを取り戻せる
*支離滅裂、攻撃性、暴力性などは、あくまで症状の一つ
*適切な治療によって、十分に病気の克服は可能
*多くは入院しないで、日常生活の中で治療できる
【参考】糸川昌成/監修『ウルトラ図解 統合失調症』(法研 2017年)
病気としての症状や障害に焦点を当てるのではなく、視点を変え生身の人間として統合失調症の人を見るとき、「あまりにも純粋すぎて、社会の複雑さや利害関係などに適応できない」という印象を持ちます。
純粋であるがゆえに傷つきやすく、「そつなく生きること」が不得手な人たちと言えるのかもしれません。
治療は精神科が中心になりますが、従来の閉鎖的入院環境での治療から、日常生活を送りながら外来治療をするという方法も増えてきています。
これは、ボランティアなど地域の人たちの協力があってこそ実現できることです。
統合失調症は、精神医学上長い歴史をたどってきましたが、現在はこうした開かれた治療も行われ少しずつ進展しているという状況です。
しかしながら、つい最近、統合失調症と診断された長女を長期にわたり監禁し、衰弱死させるという事件が起こりました。
誰にでも起こりうる病気で患者数が多いにも関らず、偏見がなくならないことや医療・福祉の不十分さは解消されていません。
専門家は、地域で暮らせる支援体制を充実させる必要があるとも指摘しいてます。
<執筆者プロフィール>
藤尾 薫子(ふじお かおるこ)
保健師・看護師。株式会社 とらうべ 社員。産業保健(働く人の健康管理)のベテラン
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供

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情報提供元: mocosuku

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