
日本と中国の関係が、極めて厳しい緊張状態にある。発端は高市早苗総理による「台湾有事」をめぐる国会答弁。以降、中国側は日本への渡航自粛を呼びかけ、水産物の輸入を事実上停止するなど強硬姿勢を強めている。
【写真を見る】話題になった局長級協議 “頭を下げているように見えた場面”とは
表面上は対立が激化する両国だが、その裏側では何が起きているのか。局長級協議の舞台裏、中国国内の実情、そして「忖度反日」というこれまでとは異なる現象から見えてくる日中関係の本質に迫る。TBS政治部で外務省キャップを務める大崎雅基記者と、JNN北京支局の立山芽以子支局長が解説する。
局長級協議の裏側から見える「情報戦」の実態
日中関係の緊張は11月7日、高市総理が「台湾有事」について「戦艦を使って、そして武力の行使も伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になりうるケースであると私は考えます」と衆院予算委員会で答弁したことに始まる。10月末の日中首脳会談以降、順調に進んでいたように思えた両国の関係は一変。中国政府は強く反発し、日本への渡航自粛や留学を慎重に検討するよう呼びかけるなど急速に態度を硬化させた。
注目を集めたのが11月18日の「外務省局長級協議」だ。中国国営メディアが会談の様子を速報で報じるとともに、金井正彰・アジア大洋州局長が頭を下げているように見える画像が中国国内のSNSで拡散された。
立山支局長は「局長レベルの会談が中国で、しかも速報で報じられることはほとんどないが、当日は国営メディアが速報で伝えていた」と指摘。また中国外務省の建物内は通常、記者やカメラは入れないが、直前になって「皆さん、中へどうぞ」と招き入れられたことから「メディアに撮らせようという意図は明らかだった」と分析する。
金井局長の「頭を下げている」ように見える姿勢については、通訳の声を聞くために頭を傾けただけだという。大崎記者は「普段から相手の話をじっくり聞きたい時はこういった姿勢になることが多い。普段通りの金井局長の自然な姿だった」と説明した。
中国側・劉勁松局長がポケットに手を突っ込んでいる姿も話題になった。劉局長を良く知る外交官への取材によれば、このポーズも演出ではなく単なる「癖」だという。結局、両者とも「普段の仕草が出てしまったことで対照的に映った」という状況だったようだ。
重要なのは、この協議が“中国に呼びつけられたものだ”という見方は正確ではないという点だ。大崎記者は「日本と中国のアジア局長同士の協議は定期的に行われていて、前回は6月に日本で開催した。この時期に北京で会うというのはかなり前から決まっていたはず」と解説する。
こうした事実関係の正確な理解を阻むのが、中国の情報発信の特性だ。立山支局長によれば、中国のメディアは「共産党の『喉と舌』」と言われ、党の指示に従って全メディアが同じ内容を発信するという。すべての媒体で全く同じ論調の記事が掲載される光景は日本では想像できないが、中国ではそれが普通のことだと指摘する。
いまの中国国内は「忖度反日」?政府と市民にギャップ
日中間の外交的緊張が高まる一方で、中国国内の実情はどうなっているのか。日々北京で取材する立山支局長は「反日デモなどは全くない。嫌がらせの報告も今のところ日本大使館には入っていない」とした上で「積極的な反日行動よりも『忖度反日』と呼べるような現象が起きている」と指摘する。
忖度反日とは「上(中国政府)が騒いでるから、今は日本に関わるのはやめておこう」などと政府の動向や風向きを感じ取りながら消極的に自己規制する現象を指している。
実際、日本の映画の公開やイベントの中止が相次いでいるが、これも政府の空気を読んだ上での反応だとみられる。立山支局長は「日本への個人旅行は行く人は行っているし、イベントも全部中止されているわけではない」と述べ、すべての交流が止まっているわけではないと強調する。
中国側が急に対応を強めたタイミングにも注目したい。高市総理の答弁があった7日から13日までは外務省報道官による批判・抗議にとどまっていたが、13日夜に中国外務省の孫衛東外務次官が日本の金杉憲治大使を呼び出して厳重抗議。14日以降、渡航自粛要請や水産物輸入停止など対応が強化された。
立山支局長は「13日までの間に中国共産党最高指導部まで報告が上がり、より厳しい措置を取るよう指示が出たのではないか」との見方を示す。中国側にとって台湾問題は「核心的利益」、つまり国家主権に直結する譲れない問題であるからだ。
一方、日本国内の反応はどうか。高市総理の答弁をきっかけに日中関係が悪化する中で、直近の各メディアによる世論調査を見ると、内閣支持率はほぼ横ばい、高い水準を維持している。大崎記者は「中国に対してよく言ってやったと思ってる国民が多いのでは」と分析する。
答弁撤回はある?出口なき対立の行方
今回の日中関係悪化の引き金となった「台湾有事」に関する高市総理の答弁。大崎記者は、発言の経緯について「『存立危機事態にあたるかは日本政府が総合的に判断する』という答えは用意していたはずだが、(質問者から)それ以上の追及があった。『同じ答えを繰り返すのは良くない』と思った結果、アドリブで自分の普段のスタンスで答えたのでは」と解説する。
実際に11月26日の党首討論では、立憲民主党の野田佳彦代表が「持論をうっかり発言することは軽率なことになる」と批判したところ、高市総理が「これまでの答弁を繰り返すだけでは、予算委員会を止められてしまう可能性もある」「具体的な事例を挙げて聞かれたので、その範囲で誠実に答えたつもり」と説明した一幕もあった。
また、11月7日の答弁で注目すべきなのは「戦艦」という言葉だ。立山支局長は「役人が書いた答弁書ならば『艦船』か『軍艦』になるはず」と指摘。防衛省関係者も高市総理が自分の言葉で話したことを示す証拠だと話しているという。
緊張が続く日中関係の今後の見通しについて、立山支局長は「落とし所はない」との見方を示す。中国側が答弁の撤回を求めているのに対し、撤回の可能性が限りなく低いためだ。
大崎記者はその理由として、▼高市総理の発言の前提にある「政府が総合的に判断」という政府見解は変わっていないので撤回しようがないこと、また撤回することによって▼高市総理の支持層である保守派が離れるリスクがあることなどを挙げている。
こうした事情を踏まえると、日中関係の改善には時間がかかるとみられる。過去の沖縄県・尖閣諸島問題では関係正常化までに6年かかったという事例もある。
立山支局長は「中国は気に入らないことがあると水産物を止めたりなどの経済的圧力をかけるのが常套手段。それは台湾もオーストラリア、ノルウェーなども経験している。中国は『そういう国なんだ』と思って中国に依存しすぎない、ほかの選択肢を用意しておく、リスクヘッジをする。中国と長期的にどう付き合うのか考えないとまた同じことが起きる」と指摘。
一方で「国際関係を考える時に『日本は』『中国は』という大きな主語で語りがちだが、14億人の中国人の中にはいろんな人がいる。想像力を働かせて、お互い冷静になって付き合っていくことが大事」だと話す。
日本と中国が「隣国」であるという事実は未来永劫変わることはない。政府間の関係悪化が、そのまま両国民間での感情的な対立に直結することは、あまりにももったいない。立山支局長が指摘するところの「想像力を働かせた、冷静な付き合い」が求められている。
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