
検索エンジンのユーザーが検索結果画面だけで満足し、Webページを全くクリックしない「ゼロクリック」現象。報道機関のWebサイトや、ニュースサイトにとって深刻な問題になりかねない。その背景と理由は?そしてその対策は、ジャーナリズム本来の原点に立ち返ることではないだろうか。武蔵大学社会学部メディア社会学科の宇田川敦史准教授による考察。
「ゼロクリック」現象を読み解く
インターネットの「検索」をめぐる環境が、近年急速に変化している。この変化の中心にあるのが、検索エンジンのユーザーが検索結果画面上で満足し、Webページをひとつもクリックせずに済ませてしまう「ゼロクリック」とよばれる現象だ。
この現象は、Googleの提供してきた「ナレッジパネル(特定の用語や人物についてWeb上の情報を要約して表示するパネル)」などによって以前から発生していたが、2024年以降の「AI Overviews(AIによる要約)」の実装や、2025年の「AI Mode」の導入によって、量的にも質的にも新しい段階に入ったといえる。
この変化の背景にあるのは、ChatGPTに代表される対話型生成AIの急速な普及である。2024年以降、特にRAG(検索拡張生成)と呼ばれる技術が一般化し、生成AIが回答を生成する際にリアルタイムにWebを検索し、その結果を反映した「アンサー」を直接提示することが可能になった。
これまでのGoogleは、ユーザーの「クエリー(質問)」に対し、関連性の高い(Google以外の)Webページへのリンクリストを示すことで、ユーザーとWebサイトをマッチングさせる役割を果たしてきた。そしてGoogleの広告収益の多くは、自社の検索エンジン上の広告だけでなく、世界中のWebサイト上に設置された「アドネットワーク」によって支えられている。
つまり、Googleにとっては、自社の広告枠がある世界中のWebサイトにユーザーが遷移した方が収益が上がる構造になっている。そのためGoogleは当初、直接「アンサー」を示すことには消極的だった。ゼロクリックが増えて困るのは、Googleも同じだからである。
それでも「AI Overviews」や「AI Mode」の導入に踏み切ったのは、ChatGPTやPerplexity AIなど生成AIツールの「入口」としてのポテンシャルが、無視できない勢いでその優位性を脅かし始めたからである。
クリックは「減少」しているのではなく「変容」している
ではこのゼロクリックの実態はどのようなものか。変化が激しい環境のため、SEO(検索エンジン最適化)などを行っているWebマーケティング業界でもさまざまな評価が飛び交っているが、ここでは本稿執筆時点(2025年11月)でわかっている状況を確認しておきたい。
SimilarWeb社の調査 (注1)によれば、AI Overviewsなどが導入される以前の2020年頃であっても、ゼロクリックの比率は65%程度だったと推計されている。それが2025年のAI Overviews導入後になると、AI Overviewsが表示されない検索結果のゼロクリック中央値が60%前後なのに対し、AI Overviewsが表示される検索結果では83%に増加するという。この観点からは確かに、AI Overviewsが表示される検索結果について、ゼロクリックが深刻化していることが推察できる。
ではクリックの比率ではなく、絶対量は減少しているのだろうか。SparkToro社の調査(注2) では、生成AIツールのアクセス数は上昇を続けている一方で、検索エンジンのアクセス数は減少しておらず、むしろ生成AIツールの利用の前後において、検索エンジンのアクセス数も増加する傾向があるという。
つまり、生成AIは検索エンジンを置き換えているわけではなく、両者は異なる用途で併用されることで結果としてWeb全体のアクセス数を増加させていることが示唆されている。したがって、ゼロクリック「率」の増加は直ちにWebページへの流入「数」の減少を意味するわけではない。
検索意図によって異なるAI要約の影響
では、このゼロクリック脅威論が、特に報道機関やニュースサイトにおいてクローズアップされるのはなぜか。
ゼロクリックの影響は、実際にはクエリーやWebページによって大きく異なる。ユーザーの検索意図は、何かの情報について「知りたい」という「Informational」だけでなく、特定のWebサイトやブランドに「行きたい」という「Navigational」、何らかの商品やサービスについて「検討したい」という「Commercial」、そして具体的な行動を想定して「買いたい・申し込みたい」という「Transactional」の4つに分類されることが一般的である。
このうち「知りたい」にあたる「Informational」は、全体のクエリーの約52%とされ、約半数にすぎない(注3) 。
そして、AI Overviewsが表示されるクエリーは全体のわずか13%程度にすぎない一方で、そのうち88%は「Informational」クエリーに出現するという調査もある (注4)。したがって、AI Overviewsの影響を受けるクエリーは全体の中ではまだ多くはないが、そのほとんどが「Informational」クエリーであり、ニュース・報道領域のWebサイトは最も影響を受けている業種のひとつといえるだろう。
このことは、ゼロクリック問題に対する「温度差」がWebサイトを運営する業種やサービス領域によって大きく異なることを示している。情報・知識の提供を主とするニュースサイト、コンテンツサイトに比べ、「Navigational」や「Commercial」クエリーが中心のブランドやメーカー、Eコマースサイトなどは、相対的にゼロクリックの影響が小さいと考えられるためだ。
信頼性の高い情報に対する希望はある
これらの背景を踏まえると、報道機関のWebサイトや、ニュースサイトにとっては、このゼロクリックは確かに深刻な問題になりかねない。さらに、「Informational」な検索意図の「入口」として利用が増加しているChatGPTやPerplexity AIなどの対話型生成AIツールがそのニーズの一部を担いつつあることも、脅威として認識されているだろう。
しかし先述の通り、実際には生成AIは量的な面で検索エンジンを置き換えているわけではなく、現時点では人々の「知りたい」という意図の一部に簡易な「アンサー」を示す道具にすぎない。
実際のユーザーの動きはもっと複雑で、生成AIの利用後に検索エンジンの利用が増加しているというデータは、ユーザーの中には単なる「アンサー」では満足できず、より「根拠」や「信頼性」を求めるような水準の「知りたい」が(多数とはいえないまでも)混在している証左だと考えるのは、希望的な観測だろうか。
ニュースメディアの対応: 協業か対抗か
このような構造変化に対し、世界の報道機関、ニュースサイトはさまざまな「対応」に分かれている。これまでも検索エンジンやニュースポータルに対し、ニュース記事を提供する報道機関は緊張と融和の両面の対応を強いられてきた。
ひとつの方向性は、これらのプラットフォームやAI事業者との「協業」を模索する方向である。例えば共同通信社は、Googleとの間で、同社の生成AIサービスであるGeminiに対して、「信頼性の高いニュースを提供する」目的でニュースコンテンツを提供する契約を結んでいる (注5)。
また、The New York Timesは、Amazonとの間でAI接続に関するライセンス契約を結び、ニュース記事の要約等をリアルタイムに提供するとともに、同社のLLM(大規模言語モデル)の学習にも利用されるという(注6) 。これらは、AIの「材料」としてのニュース記事の商業的価値を明示的に認めた初期事例といえるだろう。
もうひとつは、報道機関のコンテンツの「無断利用」を阻止するための「防御策」を模索する方向性である。2025年8月には、読売新聞社が生成AI事業者Perplexity AIを相手取り、著作権侵害および不正競争防止法違反で東京地裁に提訴した(注7) 。Perplexity AIの生成する回答の中に、読売新聞社の記事内容が無断で再利用されていたとの主張だ。
その後、朝日新聞社と日本経済新聞社も同様の理由で共同提訴に踏み切っている。これらの訴訟は、AI事業者がWebスクレイピング(Webサイトから特定の情報を自動的に収集・抽出する技術)を通じてニュース記事を再構成・要約し、出典を明示せずに利用していることへの問題提起といえる。
これらはいずれも、「プラットフォーム依存」が強まる情報環境において収益性と信頼性のバランスをどのように維持するかという、まさに現在進行形の困難を象徴している。
プラットフォームやAI事業者に記事を提供し、対価を得ることは、記事の発見可能性や収益性を一定の水準で確保することにもつながるが、これまでの広告収益や購読料に匹敵する規模になることは想定しづらい。
なによりも、メディアが受け手との直接の接点を失い、特定のプラットフォームやAI事業者に依存を強めることは、メディアとしての主体性・独立性を維持することの困難を強め、AIが必要とする「材料」の供給に特化せざるを得なくなる可能性すらある。
他方で、「入口」として存在感を高めるAIに対し、過度に防御的な対応を取ることは、潜在的な読者を失い続けることにつながる。そればかりでなく、本当はニーズがある可能性の高い「信頼できるニュース」を流通できる機会を減らすことで、かえって情報環境全体における偽・誤情報の増加を手助けすることにもなりかねない。
アテンション・エコノミーの誤謬から抜け出すために
このようなジレンマともいうべき苦境をどうとらえるべきか。実は、この問題設定自体が、アテンション・エコノミーの誤謬に陥っていることに、報道機関は早く気づくべきだろう。アテンション・エコノミーとは、情報の信頼性や正確性よりも、いかに注目を集められるか、注意を惹きつけられるかに価値をおく競争環境である。
生成AIの利用が、結果としてWeb全体のアクセス数の増加に寄与しているということは、必ずしもアテンションがゼロサムでAIに奪われているわけではないという事実を示唆している。先述の通り、そのAIの「安直さ」こそが、むしろ信頼性・正確性に対する「知りたい」というニーズを逆説的に高める裂け目になっている可能性があるのだ。
しかし、多くのニュースサイトは、信頼性や正確性を担保するジャーナリズムの精神を置き去りにするような、アテンションを奪うための「釣り見出し」や、「コタツ記事」など、自らアテンション・エコノミーの渦中へと飛び込み、クリック数、PV数の論理に依存しているように見える。だからこそ、ゼロクリックが脅威として認識されてしまうのだ。
ジャーナリズム本来の原点に立ち返って考えれば、報道機関がAIに代替されない価値を維持するために大切にすべきことは、なによりも身体性を基礎とした現地・現物を取材し確認する力だろう。
AIは、すでにテキストとして流通したものを再構成し、要約する力は優れているが、日々世界で起きている事象をくまなく調査し、検証し、観察や取材に基づいて事実を明らかにすることは(現時点では)できない。なぜなら、現在のAIはみずから世界と接触する身体をもたないからである。
誰かが一次情報を収集し、データ化しない限り、AIはそれを扱うことができない。取材現場に赴き、まだ誰も知らない情報を掘り起こし、人間の声や体験を通して社会的文脈を編み直す、この「身体性」こそが、AIには再現できないジャーナリズム固有の価値である。
したがって、報道機関が進むべき方向は、単に流入数を回復することではなく、AIが普及する時代だからこそ重要になる「信頼の再設計」である。AIの出力がとりあえずの「アンサー」を提示する世界において、報道機関は「検証された正しさ」「多様な視点から見た真実」を提供する場として再定義(あるいは原点に回帰)する必要がある。
そのためには、記事単位のアクセス競争ではなく、コンテンツの質と透明性を高める地道な取り組みが欠かせない。プラットフォーム事業者やAI事業者が手を出せないこの領域の独自性を高めることが、遠回りに見えても、その維持・強化に必要な対価を社会的に分配するエコシステムの再構築につながるのではないだろうか。
注1)Barenholtz, L. (2025) Zero-Click Searches And How They Impact Traffic.,similarweb blog, May 22, 2025
注2)Fishkin, R. (2025) New Research: 20% of Americans use AI tools 10X+/month, but growth is slowing and traditional search hasn’t dipped., SparkToro blog, Aug. 26, 2025
注3)Fishkin, R. (2024) New Research: We analyzed 332 million queries over 21 months to uncover never-before-published data on how people use Google., SparkToro blog, Dec.2, 2024
注4)Goodwin, D. (2025) Google AI Overviews now show on 13% of searches: Study., Search Engine Land, May 6, 2025
注5)共同通信社(2025) 米グーグルとニュースコンテンツ提供の新契約. 共同通信社 (2025年11月3日取得)
注6)Singh, J. (2025) New York Times partners with Amazon for first AI licensing deal. Reuters, May. 30, 2025
注7)読売新聞(2025) 生成AI検索サービスで記事を無断利用、読売新聞が米新興企業に21億円の賠償請求, 読売新聞オンライン2025年8月7日
<執筆者略歴>
宇田川 敦史(うだがわ・あつし)
武蔵大学社会学部メディア社会学科准教授
1977年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士後期課程修了・博士(学際情報学)。京都大学総合人間学部卒。
専門はメディア論、メディア・リテラシー。複数のIT企業にてWeb開発、デジタル・マーケティング、SEO、UXデザイン等に従事したのち現職。
主な著書に『アルゴリズム・AIを疑う 誰がブラックボックスをつくるのか』(集英社、2025年)、『Google SEOのメディア論 検索エンジン・アルゴリズムの変容を追う』(青弓社、2025年)、『AI時代を生き抜くデジタル・メディア論』(北樹出版、2024年)などがある。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。
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