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「緊急事態」過去最悪のクマ被害 市街地でも… すみ分けは可能? 地域で摸索される対策、クマのエサを山に 10年越しの挑戦【報道特集】

国内
2025-11-15 06:30

過去最悪となっているクマの被害。市街地でも出没が相次いでいて、これまで出没しなかった地域でもクマが目撃されています。一体何が起きていて、どんな対策がとれるのか。現場を取材しました。


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過去最悪のクマ被害 市街地でも

11月4日、青森県・西目屋村の村役場で、自動ドアにぶつかりながら走り回る子グマ。秋田・仙北市では、住宅街にある美術館の敷地にクマがあらわれた。


2025年は市街地でクマの出没が相次いでいる。


撮影者(仙台市・4日)
「ほらほらほら。でっかいよ親」


被害が深刻な秋田県には、クマ対策としては異例の自衛隊派遣が行われた。


これまでクマに襲われてけがをした人は、21の都道府県であわせて200人。死者は13人にのぼり、過去最多となっている。(JNNまとめ・8日午後3時時点)


「よく生きていたもんだ」クマに襲われ左目失った猟師

鋭い爪を檻にかけ唸り声を上げて暴れるヒグマは、2025年9月に北海道で捕獲された。


このクマを捕獲したのが、北海道・岩見沢市に住む猟師歴55年の原田勝男さん(85)だ。原田さんは25年前、鹿狩りで山に入った時、昼食を取っていると、突然クマに襲われた。


猟師歴55年 原田勝男さん(85)
「後ろ振り向くと同時に4、5メートルしかない(距離で)撃った。急所に当たればよかったんだけれども、急所外れたんですね。転んだら、クマが俺の胸に手を乗せてハーハーって来やがった」


原田さんを襲ったクマの頭蓋骨。体重約160キロ、体長約1.5メートル、推定5歳のメス熊だった。


原田勝男さん
「(頭を)ガリガリガリガリかじってた。よくこれで俺生きてるもんだと、未だに思うんだけども」


放った弾が太ももに当たり、苦しがっていたクマはしばらくすると逃げていった。原田さんは九死に一生を得たが、この時、左目を失った。


なぜクマは原田さんを襲ったのか。


原田勝男さん
「後でわかったが、何日か前に地元のハンターが有害駆除で半矢(命中したが逃げられた状態)にしていた。だから俺を襲ってきた」


“クマから人を守る” 猟師が始めた活動

クマの恐ろしさを誰よりも知っている原田さんは2007年、鳥獣被害対策を行うNPOを設立。クマが人里へ出てこないよう、環境を整える活動を始めた。


原田勝男さん
「自分が動かないと地域が大変な目に遭うと思っております。今年はクマが非常に多いもんで」


ーーどうして増えた?
「山の気候が良かった。去年、おととしあたりが天気の日が続いたから、気候が良かったから、子供をたくさん産んだんじゃないでしょうかね」


北海道警察によると、クマの通報件数は2024年、2600件あまり。だが2025年は10月末時点で約4800件と、倍に迫る勢いだ。


この日、原田さんが向かったのは自宅から数キロ先にある山。周囲には民家があるが、そのすぐ先にあったのはクマ用の箱わなだ。


原田勝男さん
「4、5日前、クマが家のところを通って山に上がっていった」


ーー何を入れている?
「鹿を入れている。畑のふちで捕獲した」


ーーこの箱わなにはこれまで何頭ぐらい?
「何十頭も獲ってます」


岩見沢市では、現在7か所に箱わなを設置している。原田さんのNPOは毎日その見回りを行っているが、活動には常に危険が伴う。


原田勝男さん
「(箱わなの)蓋が落ちていた時に子グマが入って、親が周りにいることが多々ある。それが一番危険」


2025年9月、原田さんのNPOで捕獲したヒグマ。よく見るとすぐ近くの森に子グマの姿が映っている。


原田勝男さん
「親が入って、子グマが(外に)いるのはいい。逆になった場合に親は襲ってくる。絶対、親がそばにいるから」


クマとの間に緩衝地帯 人的被害なくす「原田式ゾーニング」

原田さんが次に向かったのは、食用の鶏などを飼育する市内の養鶏場。


10月下旬、鶏小屋をクマが襲い十数羽が被害に遭った。


原田勝男さん
「ぶっ壊して中の鶏を食ってる。(扉に)肉球のあとが残ってる。相当でかいということだ」


ーー体長はどれぐらい?
「2メートル50ぐらいある」


襲われたその日に、原田さんのNPOでは養鶏場に箱わなを設置。2日目の夜、その回りをうろつく体長2メートルほどのヒグマがカメラに写っていた。


原田勝男さん
「ここは一番危ない。いつまたやられるかと思って」


ーーここに餌があると分かったら?
「何度も来ます。何もしないと昼間から堂々と出る、慣れます」


原田さんは、被害を減らすためにはクマが人の住む場所に出てくる前に、捕獲することが重要だと考えている。その発想から生まれたのが「ゾーニング」だ。


かつて、市街地などでクマの目撃情報が出ると、その場所に箱わなを仕掛けていた。


だが、被害が出てからでは遅いということから、クマと人間の生活エリアの境目に緩衝地帯を設け、そこに箱わなや電気柵を仕掛けた。これが「原田式ゾーニング」だ。


棲み分けをはっきりさせたことで、岩見沢市では20年以上、人的被害が出ていないという。


原田勝男さん
「特にクマはこれにすごく警戒します。クマにプレッシャーになるから出てこなくなる。(ゾーニングが)全国的に広がることによって、クマの被害は減らすことができる」


それでもクマの学習能力が高まっているため、捕獲は年々難しくなっているという。


原田勝男さん
「昔みたいに檻を置けば簡単に入るものではなくなってきた。クマは来ているわけですから、それが入らないということは昔はなかった。クマの性質が変わってきた感じもする」


京都・嵐山のすぐ近くでも…相次ぐクマの目撃

紅葉シーズンをむかえた京都の人気観光地の近くでも、クマの目撃情報が相次いでいる。


村瀬健介キャスター
「京都・嵐山の観光地には、たくさんの観光客が歩いていますが、すぐ近くには山が迫っています。ここから車で10分ほどの場所では、クマの目撃情報もあるということで、地元の商店街では、クマに対する警戒感が広がっています」


嵐山商店街の石川会長は…


嵐山商店街 石川恵介 会長
「クマは移動します。山は繋がっていますので嵐山でも実際起こりうる、クマが出る可能性あります。怖いですよね」


商店街ではゴミの出し方を工夫するなど、クマ対策を呼び掛けているところだという。


嵐山商店街 石川会長
「(ごみ袋を)二重にするとか囲いをするとか。回収業者と調整は難しいかもしれないけれど、なるべく出す時間を短くする。出勤前と閉店後、気を付けましょう、警戒しましょうと」


嵐山のある京都市右京区では、映画村で有名な太秦周辺で10月、あわせて6頭のクマが目撃されている。


ーーすぐそこにクマが出没した?
近隣住民

「車の後ろに(山が)あるでしょ。そこを山づたいに下りてきた」


京都市全体では10月、平年の2倍以上にあたる30件の目撃情報が寄せられたという。こうした事態を受けて5日、京都市は初めてとなる対策会議を開いた。


京都市 担当者
「フェーズが変わった。そういう意識をもって今回の会議の開催に至った」


市は今後、外国人観光客に注意を呼びかける看板の設置などを進めるとしている。


“クマはいない”はずの地域にも…

撮影者(5月 京都・木津川市)
「ガチクマやん」


これまでクマはいないとされていた京都府南部の木津川市でも、5月に初めて目撃された。2024年までゼロだった目撃情報は、11月8日朝までに47件も寄せられている。


近隣住民
「俺らも必死に心配している。やっぱり動いてほしいわ、頼みますわ」


しかし、木津川市ではクマに対応した経験のあるハンターがおらず、簡単には駆除できない。捕獲した場合、人の怖さを教えてから山奥に返すことになったというが…


木津川市役所農政課 木下勝史さん
「元々いないところのクマ。また群れに返すというのは話はわかるが、木津川市内で放獣しないといけないとなると、地域の皆さんからは当然ながら了承いただけなかったのが事実」


ーーそう簡単には駆除できないと?
近隣住民

「できない。(クマが)檻に入ったらどこかに持っていくらしい。また帰ってくる。あかん」


ーー持って行く先がない?
「ない」


市はクマの行動を把握するため、センサーカメラを設置した。人的被害を防ぐために、今後、駆除を前提とした捕獲の許可を京都府に求めていくことも考えているという。


木津川市役所農政課 木下さん
「クマがこれまでも出ている地域とは、若干異なるので難しいところ」


クマの分布エリア拡大 目撃情報あるなら「出歩かない」

クマの出没が相次いでいる背景には、生息圏の拡大と個体数の増加がある。


東京農工大学のレポートによると、クマの分布域は1978年に確認されていたエリアから、2003年にはやや拡大。2017年にはさらに広がった。


40年で北海道のヒグマの分布域は1.9倍に。本州のツキノワグマは2倍になっている。


クマの生態に詳しい東京農業大学の山﨑晃司教授は…


東京農業大学 山﨑晃司 教授
「(現在)一部については、もうちょっと広がってると思う。でもほぼ森の分布に飽和してるような感じ。先進国の中では、これだけクマが広く分布している国はない」


市街地への出没が相次ぐ理由については…


山﨑晃司 教授
「それまで畑や水田だったところが、また森に戻ってきたりして、しかも、そこに人がいない。集落周辺には柿や栗があったりして、そこでずっと暮らしているクマたちが増えてきているので、何かちょっとしたきっかけがあると、そこから市街地にクマが飛び出てきちゃう。


特に北東北。クマの目撃件数がいっぱいあるようなら、もう出歩かない方がいいと思う。近くにクマがいるという前提で、この緊急事態を何とか乗り越えてもらいたい」


“エサがない” 人間が奪ったクマの住める山

クマが生息しやすい環境を山につくることで、人とのすみ分けを試みる場所がある。


神奈川県西部にある山北町。山北町では4日、クマが走行中の電車とぶつかる事故が起きている。


この町で生まれ育った猟師の杉本一さん(87)。クマが人里に降りるようになった背景をこう語る。


猟師 杉本一さん(87)
「山のどこを歩いても(クマの)食べ物が見つからない。人間がそういう山にしちゃった」


地元の猟師の豊田さんとともに山を見渡してみると…


猟師 豊田里己さん
「黒いモスグリーンのところが全部スギ、ヒノキ。全部です。昔は植えておけば、建材、家を建てるときの材木や柱、そういうのに使えるという夢があって植えたと思うけど、今まであった動物が食べる実のなる木、おそらく実がならない」


猟師 杉本さん
「これじゃあ動物はどこでエサを食べて、住めばいいんだということになっちゃう」


県の自然環境保全センターによると、高度経済成長期にスギやヒノキを植え、人工林を作るためにどんぐりのなる広葉樹を伐採したことでクマのエサが減少。


さらに、人工林によって光の入らないところでは、新たに広葉樹は育ちづらい。温暖化なども重なり、山北町ではここ10年ほど、どんぐりの不作が続いているという。


猟師 豊田さん
「動物がとどまれる環境を作らないと、里山へ出てるクマは(山へ)戻ってこない」


「駆除だけでは解決しない」山に木の実を… 10年におよぶ取り組み

そこで、杉本さんは山に木の実を増やそうと、10年前にどんぐりを拾い集め、家の庭などで育てた苗木を山奥に植える活動を始めた。


できるだけ長い期間、クマのエサが確保できるよう、実のなる時期が異なるクルミも植えた。ボランティアの手も借りながら、これまでに植えた数は4万本以上に及ぶ。


そして、10年前に植えた木には、2025年に初めてどんぐりが実っていた。


猟師 杉本さん
「10年経つと実がなる。動物も食べられる。この山で動物と共生する我々にとっては大切な木。エサが必要な時期にエサがないと、今年の秋田県や東北のような動きを動物はする」


杉本さんの庭には、ブナのどんぐりからつくった2000本もの苗木が育っている。全国のクマで困っている地域に配りたいと話す。


猟師 杉本さん
「駆除も仕方ないと思う。だけどそれだけじゃ解決しない。ずっと続けていかなきゃならない。時間はかかりますよ。今日蒔いたからって明日、実がなるわけじゃない。結果的に長い時間かかっても、やっぱりこれをやらないと、本当の意味の解決にはならない」


過去最悪のクマ被害 地域で摸索される対策

山本恵里伽キャスター:
クマ被害が相次いでいますけれども、各自治体は非常に奮闘していると思います。専門家の山﨑教授は、すぐにできる取り組みとして、人里でクマを誘引している柿の木を伐採することや、畑で間引きした作物を放置しないことなどを徹底することが有効だとおっしゃっていました。


ただ、地域によっては外に出ること自体が既に危険という場合もありますので、お住まいのエリアのクマ情報を確認した上で、安全第一で過ごしていただきたいと思います。


日下部正樹キャスター:
クマというのは人間とは違ったやり方で学習するそうです。特に嗅覚と記憶力に優れていて、こうした能力を生かす形で学習して、環境の変化にも適用することがあるといいます。


クマが街の中にまで出没する原因の一つに、クマが人間のそばにはいつも多くの食物があることを学んだからではないかということがあるんです。クマはこれまでの習性を変え得るんだということを、一つ頭の中に入れておいた方がいいのかもしれません。


村瀬健介キャスター:
実は嵐山の商店街の石川さんも、街の近くの山に人の手が入らなくなったということも、野生動物が市街地に出てくる要因になっているのではないかと話していました。


かつては薪を取るために山の木を切るなど、野生動物と人との間に緩衝地帯があったそうなんですけれども、そういうことがなくなってしまったとおっしゃっていましたね。人の暮らし方が変わったことで、徐々に山の環境が変わりましたから、その対策も時間がかかるものになるのはある程度覚悟しないといけないのかもしれません。


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